観た後、こんなにもツラさが胸を締めつける映画も久々である。しかしツラくても、心に永遠の中坊魂を持った男には、観ることを薦めたい。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』とはそういう作品だ。
花沢健吾の人気コミックを原作とした本作、そのツラさの元凶は主人公の田西敏行にある。こいつは三十路手前で誕生日を祝ってくれる友や恋人もなく、テレクラで女漁りをエンジョイする毎日。苦労の末、ようやく捕まえた女もデブでブス、しかもエッチの下手さにブチ切れた女から暴力を振るわれるという、どこまでもダメ人間だ。
そんな不幸な田西君にも、ようやく春がやってくる。相手は同じオモチャ会社の同僚である植村さん。処女でサブカル好き、エッチなことにもちょっと興味のある彼女に、田西は自慢のAVコレクションを貸したりして、いい感じに誘導していく。唯一の友であるライバル会社の営業・青山も二人をバックアップしてくれて、いよいよ後はベッドインのみ!
ところがそこはダメ人間、病気見舞いに訪れた彼女のアパートで、隣人のソープ嬢の色香に惑わされた田西くん。辛抱たまらず性交に至ろうとしてしまい、せっかくの植村さんとの仲をパーにしてしまう。
しかも味方だと思っていた青山の奸計により植村さんを処女ごと奪われ、あげく仕事の手柄まで奪われて、責任を取らされた田西は心身ボロボロで会社まで去る事になる始末。そこで復讐に燃えるも、青山は一流メーカーのやり手サラリーマン。しかも腕っぷしも強く、全く勝てる要素なし。でも、男ならやるしかないんだよ!!
物語はそんな田西くんが酒浸りの上司(ボクシング経験アリ)にケンカ必勝のトレーニングを受け、メキメキと自信をつけていく様子が克明に描かれていく。そして仕上げは『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロよろしくモヒカン頭にして、青山が勤める大手玩具会社に単身乗り込んでいくのだ。
この田西を演じるのが、銀杏BOYSの峯田和伸。峯田は映画デビュー作となった『アイデン&ティティ』でも、ロックに人生を捧げた童貞臭たっぷりの青年を快演。本業の方でもライブで幾度となく全裸を晒すなど、人生を省みない直進キャラクターはまさに手のうちだ。それだけに、彼の姿はすべての男の青春時代の姿として、あまりにもリアルで直視できないイタさがある。
だが、そんな田西が青山への復讐を機に男として目覚めていく姿は、『タクシードライバー』を踏まえながらも、まるで『ドラえもん』の感動回「さようならドラえもん」(てんとう虫コミックス6巻に収録)のようなダメ人間の鎮魂歌を奏でていく。ステゴロでジャイアンを負かしてこそ、ドラえもんを安心して未来へ帰すことができる。そんなのび太が見せた”ダメ人間からの脱却”と、本作はまさに同質のものを包含しているのだ。
たとえボロボロになろうとも、傍から見てひたすらイタイと感じても、自分をまっすぐに見つめ直し、目標に対して一直線に突き進む田西の勇姿は確実に心打つものがある。そして、田西と同じような生き方をしながらも、どこかそれを「人生の敗者」として捉えている者にこそ、彼の勇姿をしっかり眼に焼きつけてもらいたい。
峯田もそうであるように、本作はキャラクターを見事に体現したベスト配役で、そこもまた大きなポイントだ。特に植村さんを演じる黒川芽以と、青山役の松田龍平がいい。
前者は処女で屈託のない笑顔を見せつつも、童貞男のエロ話にも屈託なく食いつく、いかにも”童貞男たちの女神”ぶりが出ているし、青山の毒牙にかかり、女としてのいやらしさで最後の最後まで田西を振り回す様は、『嬢王 virgin』(テレビ東京系)で裏表のある悪女を怪演した黒川らしさが光る。原作では、植村さんは坂道を転げ落ちるように転落し、さらなる毒婦ぶりを発揮するだけに、そちらの方を憎々しく演じる姿も見てみたい。
後者はもう、田西に近づいてきた時の物腰の柔らかさから一転し、植村さんを利用した後の冷徹っぷりや、いやらしいまでに圧倒的な喧嘩の強さといい、全てにおいて父親(松田優作)を彷彿とさせる。
監督は本作が長編映画初メガホンとなる三浦大輔。演劇ユニット・ポツドールの主宰者として活躍中の三浦だが、今回が初めての劇場用作品にも関わらず、心地よい疾走感できっちりまとめている。
決してハッピーエンドとは言い難いラストではあるが、それでも何かを成し遂げた田西の勇姿はイタさと共に清々さすら満ち溢れている。決して格好良くはないが、それでも男としての進べき道をがむしゃらに歩んで行く彼の生き様を描いた本作は、男のバイブルとして必見の一本となること間違いなしだ。
(文=テリー・天野)
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