昨年の夏、「週刊少年ジャンプ」40号にて、『To LOVEる -とらぶる-』（脚本：長谷見沙貴／漫画：矢吹健太朗）という作品が最終回を迎えた。ヒロインが多数登場する典型的なハーレム型ラブコメであった同作品は、そのお色気描写によって、ジャンプの歴史に足跡を残した。
元々、他の少年誌に比べて、萌えやお色気に拠るところが特に少なく（腐女子人気は一番かもしれないが）、実際に若年層の読者割合も一番多いだろうと思われる「ジャンプ」の中で、過剰なまでの読者サービスは悪目立ちと言えるほど異彩を放っていた。しかし、その人気を決定づけたのは、「ジャンプ」本誌の中では描かれてない乳首が、単行本の加筆修正の際に描き足されていた（ただ描き足すだけではなく、髪の毛で乳頭部分を隠していたところを、髪の位置を描き直してずらして加えることもあった入魂ぶり）ことが大きな話題を呼んで以降だろう。この話は、ネット上で爆発的に広まったため、日頃少年誌に興味がない方でも作品名は聞いたことがあるという方も多いのではないだろうか。
しかし、単行本ベースでは大ヒット作品であった同作品も、「ジャンプ」のアンケート至上主義の中では旗色が悪かったようで、次第に本誌でのアンケート順位が下位で常態化するようになっていった。そこから打ち切りレースを何度か凌ぎ、単行本の売り上げを考えれば、切るのは難しいのでは──と見る向きもあったが、遂に昨夏連載が終了。ネット上では、アンケート支援の不足を悔いる声が散見され、未だに続編を夢見るファンも多い。
そして、作画を担当していた矢吹健太朗が、現在発売中の「ジャンプスクエア」2月号で、ライトノベル原作（松智洋／イラスト：ぺこ）の新連載『迷い猫オーバーラン！』を開始し、「ジャンプ」本誌ではできなかった乳首券を大発行している。
「月刊少年ジャンプ」の後継誌として誕生した「ジャンプスクエア」だが、「少年」の冠が取れたことで乳首の登場はアリとなったのか、昨年連載を開始した『Dr.るっる』（前田理想）では、新連載第1話で、ヒロインが「全身全霊」を「全身全裸」と聞き間違えて主人公の前に裸身を晒してしまうというとんでもないシーンでおっぱいが披露され、局所的な話題を呼んでいた。
しかし、やはり矢吹の兄ぃは一味違う。乳首の出し方がぶっ飛んでいるのだ。問題のシーンは、ヒロインの1人・霧谷希（きりやのぞみ）が、服を洗濯されてしまったことに気付かずシャワーを浴びてしまい、全裸で室内にいるところを主人公の都築巧に発見されるというもの。原作を未読でも、矢吹ファンであれば、巧が扉を開けた先にお色気ハプニングが待っていることは、自明の理である。こういったシーンの常套手段としては、左ページ最後のコマで扉を開け、次のページを開いたら全裸！ といったものだが、矢吹は違った。見開き右側のページで扉を開け、左側に希の裸を描いているのだが、問題はその大ゴマの１つ前。そこには、斜め後ろから見た希の右乳が、乳首とともに描かれているのである。
かつてサービスシーンの前に、乳首だけが先に描かれるといったことが、果たしてあっただろうか！ 少なくとも、ヒロインの記号として乳首が描かれていたわけではない。部屋にいるのが希であることを暗喩するだけなら、彼女の髪型は猫の耳のように立っている特徴的なものなので、その部分を切り取れば十分なのである。
特に意味のないコマに思えてならないのだが、だからこそ筆者は大いに震えた。矢吹健太朗恐るべし。今後の乳首券の使い方にも要注目である。
（文＝B.I.Sachiko）
『To LOVEる-とらぶる-画集らぶから!―愛蔵版コミックス』集英社
薄ピンクの乳首も袋とじで収録!!