【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第2回】

アイドルが”アイドル”から脱皮するとき amU『prism』

amUのaco(左)とmeru(右)

 アイドルにはいつか終わりが来る。松田聖子のような「永遠のアイドル」がごく稀な存在なのはご承知の通りで、多くのアイドルは自分の意志や、事務所の都合で、いつか私たちの前から姿を消していく運命にある。連載の第2回目でいきなり湿っぽい話をしていて、この連載の先行きが我ながら心配だ。

 さて、今回紹介するamU(アミュ)は、acoとmeruという二人による大阪のアイドルだ。2008年4月に結成されたamUは、エレクトロなポップスで次々とキラー・チューンを送り出し、独自のキュートな世界観を表現するステージ・アクトを展開して支持を広げ、この約1年で東京でも一気に人気が拡大。事務所に所属せず、東京に地盤を持たないアイドルだというのに、8月に東京で行われたソロ・イベントでは100人以上を動員してしまった。二人の可愛い女の子が、キャッチーでよく磨かれたエレクトロの楽曲を、ステージ上で歌い踊る。ただそれだけだけれど、現実には稀有な存在だ。すでに東京では、男女問わず多くのファンが熱狂している。

 そして届けられたのが、12月5日発売(Amazon.co.jpでは12月15日発売)のデビュー・アルバム『prism』だ。衝撃的だった。なにしろジャケットに本人たちがいない。収録曲を見ても、これまでシングルでリリースされてきた「カプセルガール」「グレック・グレック」といった代表曲が一切収録されていないのだ。amUが単なる「アイドル」の枠組みを超えはじめているのは、誰の目から見ても明らかだった。


 『prism』でもエレクトロという軸は不動だが、曲調は非常に多彩だ。ポップさとアバンギャルドさが同居するタイトル曲「prism」で幕を開け、ハードなエレキ・ギターが鳴り響き、英米のロックに呼応するかのような「『chat』」、強烈な低音と子供のコーラスが彩る「0’00”」、ふたりのヴォーカルの大人っぽさを引き出す「キティニッシュ・キッチン」、エレクトロニカからロックへと一気に展開する「DIVER」と、様々な意匠のサウンドが詰め込まれている。すでにライヴでは定番の「moco」「LiNK U」をはじめ、「love the candy stream」「NEO TRAVERALLER」といったポップな楽曲もしっかり用意されていて楽しめる。ラストの「U&Me The カラフル メリーゴーランド ハッピーエンド!」に至っては、楽隊の演奏のようなサウンドから、大胆にエレクトロの世界へと回帰していき、強烈なカタルシスを残す。

 そしてこの『prism』を聴いた人は気付いてしまうだろう。このアルバムに宿る強烈なミュージシャンシップを。実はamUのふたりは、トラックメイカー、フォトグラファー、マネジャーから構成される6人の「amU Planet」というユニットのフロント・アクトなのだ。だから本質的には、バンドやアート・ユニットに近い。

 このアルバムの完成度に感銘を受けつつ、しかし聴き終わった後に何かが胸に詰まったままになるのは、この間までアイドルだと思っていた存在が、その枠を超えて、アーティストとしての表情を見せていたからだ。

 『prism』発売日の12月5日、渋谷のエイジアPでリリース・ライヴが開催された。amUが招いたのは、JaccaPop、ヒダリ、de!nial、Mizcaといった、アイドルではない、テクノ系のアーティストばかり。そしてamUは、『prism』からの新曲初披露となるこのライヴで、大きな幕を使った手品のようなパフォーマンスを見せた。無茶しやがって。そう思いながら、彼女たちが自分たちのクリエイティビティを表現していこうとする姿勢に感動した。ハート型のレコードがターンテーブルで回るVJをバックに、CDジャケットに登場するピンクマンたちと一緒にamUが踊る光景は、多幸感に満ち溢れていた。ずっとこの時間が続けばいいのに、と思うほど。

 そして、新旧の楽曲を混ぜたライヴでは、私を含め、ファンはいつものようにコールもしたし、MIX(リズムに合わせて定型の掛け声を発する行為)も打ったし、口上(楽曲の冒頭などに定型文を乗せる行為)も叫んだ。これはアイドルの現場だからこそできることだ。こういう行為を、そう遠くないいつの日か、私は自主的にやめてしまうかもしれない。いや、その日はきっと来るだろう。また一組の輝いていた「アイドル」を失うせつなさに胸が苦しくなった。これはamUの「幼年期の終わり」だ。せつなすぎて、そんな文脈外れの形容が脳裏を横切った。

 Perfumeの大ブレイク以降、「Perfumeフォロワー」と呼ばれるテクノ・ポップ~エレクトロ・ポップのアイドルが大量に登場した。彼女たちもまたアイドルのマーケットの限界を感じたとき、アーティスト路線へとシフトチェンジすることになる。しかし、それは容易なことではないし、そもそもデビュー時から支えてきたファンが離れてしまう危険性を孕んでいる。結局のところ、テクノ・ポップ~エレクトロ・ポップ路線でもっともセールス面で成功を収めたのは、当初からソニー・ミュージックエンタテインメントがアイドル要素を念入りに排除してきたMiChiであろう。彼女のデビュー・アルバム『UP TO YOU』がオリコン週間ランキングに4位で初登場したとき、シーンにひとつの決着がついた。

 amUの『prism』が特異なのは、彼女たちが本質的にアーティストであることを悟らせるのに充分な説得力が音楽面に備わっている点だ。これは他のテクノ・ポップ~エレクトロ・ポップ系のアイドルたち(というかそのスタッフ)が喉から手が出るほど欲しいものだろう。しかし、これを成し遂げてしまったのは、”星に;願いを”とCodiというamU Planetのふたりのメンバーなのだ。音楽制作からステージアクト、衣装製作、グッズ制作まで徹底して自分たちで行うamU PlanetのDIY精神。それが生みだしたひとつの奇跡がamUの『prism』なのだ。

 長々と書いたけれど、こんなことはヲタの戯言として聞き流してくれてかまわない。ただ、amUの『prism』は、優れたアイドル・ポップスとしても、聴き応えがあるエレクトロ・ポップとしても楽しむことができるので、ぜひ聴いてみてほしい。

 たとえせつなくても、奇跡は祝福され、正当に評価されるべきなのだ。

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