ラッシャーみよしの「エロ業界栄枯盛衰物語」第18回:

ワイセツ? ゲージュツ? ヘアヌード解禁!(1994年)

『Santa Fe』宮沢りえ(1991年11月/撮影:篠山紀信/朝日出版社刊)

 篠山紀信さんの写真集『20XX TOKYO』(朝日出版社)が公然わいせつ罪で摘発されたのを受け、加納典明さんが「紀信さん、これは戦った方がいいよ!」みたいなことをテレビでおっしゃっていたのを見て、いやいや、思い出しました。典明さんが「ワイセツ、ワイセツ」で世間を騒がせていたのが1994年とか95年頃。15年前の事件でしたが、公然わいせつやわいせつ物頒布が話題になると必ず典明さんが登場するところがおもしろいですね。

「他に誰かいないのか!」と、思ったわけですが、これはつまるところ、メディアがその後なしくずし的に陰毛だらけになり、結果として典明さん以降はもはや重大な犯罪ではなくなったため、彼が最後の「大物」になったわけです。

 典明さんが逮捕されたのは、94年に発売された『きクゼ!』(竹書房)がきっかけでしたが、ヘアヌードの歴史を簡単に見ておくと、こんな感じでしょうか。

樋口可南子『water fruit』(1991年2月/篠山紀信撮影/朝日出版社)
宮沢りえ『Santa Fe』(1991年11月/篠山紀信撮影/朝日出版社)
島田陽子『KirRoyal』(1992年/遠藤正撮影/竹書房)
石田えり『罪 immorale』(1993年3月/ヘルムート・ニュートン撮影/講談社)
川島なお美『WOMAN』(1993年7月/渡辺達生撮影/ワニブックス)
高岡早紀 『one,two,three』(1995年1月/篠山紀信撮影/ぶんか社)
藤田朋子『遠野小説』(1996年3月/荒木経惟撮影/風雅書房)

『きクゼ!』はその前年から月刊で発行されていた『月刊ザ・テンメイ』(竹書房)をまとめたものだったわけですが、警察はこれを「ワイセツ」と判断。いわゆる「ゲージュツ」とは一線を画するものとして摘発に踏み切ったわけですね。要するに、「これはエロ写真集でしょ!」と、警察は言ったわけです。

 いやはや、こんなやりとりを見ながら我々エロ本側の人間は、「同じハダカと言いながら、なんとも遠い世界の話やなぁ……」と非常に他人事でした。世間の人たちは「公然わいせつ問題はエロ本業界の人こそ一番の当事者で、これらの問題に無関心でいられるはずがない!」と思ったに違いありませんが、エロ本屋がこんなところに口を挟んだら、たちまち発禁。しかも、世間の衆目を集めることもなく、密かに殺処分です!

「お前らはヘルムート先生や篠山先生とは違うんだから、おとなしくしてろよ」
「エロ本には陰毛1本出させないからな」

 という暗黙の眼差しに「ヘヘーッ!」と土下座しつつ、1本の陰毛の消し残しに細心の注意を払い、しかし、怖い人がちょっと横を向いた隙にすかさず陰毛を出し、時々は「み」まで見せちゃったりして、またコソコソと隠れるのがエロ本屋。はいはい、ぼくらは世間の日陰者でございますよ。

 メジャーであればお咎めがなく、マイナーであれば犯罪者……というのもおかしな話ですが、ヘアヌードがあんなに話題になっていたにもかかわらず、エロ最前線にいたアダルト雑誌は相変わらず厳しい規制の中に置かれていたということは、意外な歴史的事実として覚えておいてもよいかと思います。

 そしてこの5年後、ぼくの事務所もわいせつ図画販売の疑いで10人の刑事に踏み込まれます。

 その時ぼくの人身御供となり、留置所に21日間拘留されたのがM君。特技は「ドラえもんの物真似」だった彼は、毎日の食事にドラえもんのふりかけが出される拘留生活から戻ってきてからは、一切物真似をしなくなってしまいました。

 ん? 何したって?

 ちょっと見せすぎちゃいました(笑)。

『Santa Fe』宮沢りえ/撮影:篠山紀信/朝日出版社刊

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