皆さん最近、ビビっと来るような邦画って見てます?
ここ数年、右を見ても左を見てもテレビドラマの延長線上みたいなドラマ映画や、お手軽な泣かせスイッチ剥き出しの”「病気で死んで悲しいね」映画”(命名:三池崇史監督)と化した作品ばっかり。女の子にせがまれて、草食系の悲しい性でついつい付き合って観てしまい、余りのしょーもなさに涙腺も下半身も枯れ果ててしまう男子も多いんじゃないでしょうか?
そんな皆様に筆者が自信をもっておススメできるのが、今回紹介する『ダンプねえちゃんとホルモン大王』です!!
主人公は、とある港町に暮らす、オッチョコチョイだが情にはもろい「ダンプねえちゃん」。結構いい歳なのにもかかわらず、トレードマーク(兼、性感帯でもある)のくるりんヘアーをなびかせて、家業のラーメン屋も手伝わずに、ガンコ親父と大喧嘩しては店を飛び出す毎日。
そんなある日、世界喧嘩チャンピオンを名乗る男・ホルモン大王がねえちゃんたちの街へとやってきた!! 粗暴な大王に一度は反目するものの、その男気溢れる九州男児っぷりにメロメロとなったねえちゃんは迷うことなく大王と(性的な意味で)合体!! 普段はぶっきらぼうでいい加減、ついでにいえば滅多に風呂にも入らず周囲に悪臭放ちまくりのねえちゃんも、ハメてしまえば夢見る乙女!! というワケで、ホルモン大王とのめくるめく愛の日々を過ごすうちに、不器用ながらも胸に秘めたささやかな夢に向かって歩み出そうと決意して、親の仕事を手伝い始めるダンプねえちゃん。ボンクラ揃いの街の人々も大王の金言に心動かされて次々とポジティブになっていきますが、そんな矢先に大王が凶暴な本性を露わにした!!
親友のポンコをアナル姦の末にお腹の赤ちゃんごと大王に惨殺され、返す刀でねえちゃんのアナルにも大王の王子様が無理矢理IN!! ここまで踏んだり蹴ったりのねえちゃんだが、心と肛門に重傷を負った彼女を優しく介抱してくれた医師は、実は拳法の達人だった……! 大王への復讐を果たすべく、千葉の山奥でハードな修行を積んだ末、ねえちゃんは大王にリベンジマッチを挑む。予想外の助っ人まで連れてきた大王を相手に、ねえちゃんの勝機はあるのか!? そしてねえちゃんの夢は、この映画は、どこへと向かっていくのか!?
かつての東映プログラムピクチャーが持っていた荒削りで下世話感たっぷりな世界観に、70~80年代香港カンフー映画のパワーとユルユル感(そして強引な吹替え!!)まで併せ持ちつつ、格闘、エロ、グロ、ミュージカル要素とインド映画的な具沢山感まで取り込み、中学生的な”おれのかんがえたかっこいいえいが”感覚で仕上げた本作。監督はこれまで自主製作映画界で名を馳せ、あの神軍上等兵・奥崎謙三の因果世界を神様視点で追った『神様の愛い奴』(98年)や、中坊魂炸裂のジャパニーズ・カンフームービーの怪作『ラッパー慕情』(03年)を手掛けた藤原章。現在の邦画界では希少な、”漢のエンターテインメント”を追い続ける作家として一部で熱狂的な支持を得ているこの藤原監督、期待に応え、ウェルメイドな現在の邦画界に風穴を開ける一本を送り出してきました。
役者陣で特に注目すべきは、ダンプねえちゃん役の宮川ひろみ。数多くのインディーズ映画で活躍し、『ラッパー慕情』での大胆な脱ぎっぷりや、主役を務めた『ヒミコさん』(07年)でのファム・ファタールぶりなど、藤原作品では常に重要な役を演じてきた彼女ですが、本作では女丈夫なねえちゃん役を喜々として怪演!! 下品でぶっきらぼうながら、時には夢見る乙女のように恥じらい、大王との艶っ気タップリな絡みまで臆せず見せるサービスっぷり。その上クライマックスの対決シーンで、本職の格闘家相手に女の武器(その衝撃度はぜひ本編を見て確認していただきたい)を駆使して戦う様はまさに圧巻!! 本編は宮川の役者魂があってこそ成立したと言っても過言ではないでしょう。
その他のキャストに関しても、個性的な演者が盛り沢山。ねえちゃんの父親で、頑固なラーメン屋の親父役に『リング』(98年)や『呪怨』シリーズの脚本家としてジャパニーズ・ホラーのムーブメントを牽引してきた高橋洋。ポンコのお兄ちゃん(病気持ちで一日の日課がTV鑑賞とスーパーの特売チェックという実質ニート)役に自主製作映像界の怪人・酒徳ごうわく。ホルモン大王の弟役で柔術の達人役には実際に柔術の経験者でもある漫画家の花くまゆうさくと総合格闘家の村田卓実……既製の俳優には出せない味の持ち主が大挙して画面狭しと暴れまくっていますが、その中でも特に異彩を放つのが、ねえちゃんの師匠役の切通理作。
『怪獣使いと少年』を皮切りに、その独自の視点から特撮、アニメ、ポップカルチャー全般から恋愛論までぶった切り、多くの支持を得てきた切通氏ですが、本作ではその容姿も相まって、まさにかつての香港映画の師匠キャラを彷彿とさせるほどです。スパルタ精神で徹底的に鍛え上げつつも時に優しく支え、チンコマンコと小学生レベルの下ネタを交わしながらねえちゃんの成長をバックアップする重要なキャラクターを喜々として演じ、作品のキーパーソンとしてまさに八面六臂の大活躍ぶりです。
ピラニア楽団によるユルユルの音楽が流れる中、笑いと涙とバイオレンスが交差する本作。既製のお姉ちゃん向け映画には飽き飽きだという方、本当のエンタテインメント・ムービーとは何かを知りたい方ならまさに必見の一本。心の中に中学生魂をいつまでも持ち続けているメンズサイゾーをご覧の貴男なら、きっと本作を見た後、感動の余りに座席を涙でグショグショにすること間違いナシ!!
このコラムをご覧になってビビっと来たあなた、そう、あなたです!! 次のデートには是非とも本作を見に行かれる事をオススメしますよ!! もちろん彼女に逃げられたとしても当方としては知ったこっちゃありませんけどね(笑)。
(文=テリー・天野)
◆『ダンプねえちゃんとホルモン大王』
監督・脚本・撮影・編集/藤原章
出演/宮川ひろみ、高橋洋、花くまゆうさく ほか
制作・配給・宣伝/ダープロ
公開/12月19日~29日 連夜20時50分~ レイトショー
劇場/渋谷アップリンクX http://www.uplink.co.jp/x/