9月から始まった秋クール新作アニメの本数は約40本。すべて観賞しようとする場合、一日で10時間自由に使えたとしても、二日があっさり二次元の彼方に飛んでいく。筆者を含めたアニメオタクは、「とりあえず見られるものは全部見るか……」と四半期ごとにやってくるクール改編期の新番組チェックで大わらわ。『そらのおとしもの』二話でパンツが世界中の空を編隊飛行したり、四話ではパンツが戻ってきて爆弾になったりと、「どういうことなの……」と呟くのに忙しく、心休まる時間がなかった。
11月に入り、やっと各アニメの雰囲気もつかめ、今クールのDVDで購入する物の選定を開始したりと、生活のリズムが安定しはじめたところかと思う。筆者の場合は、「切ったら負けかな……」と思っているので、一番組も切らず、毎週『サザエさん』まで録画している大変な日々が続いていますが、何でなんだろう……誰か止めてほしい。
さて、今回から始まったこの連載は、そんな生活のサイクルがアニメ基準で動いている人から、話題作なら見てみようかな? という人まで、アニメ雑誌にはたぶん掲載されないであろう比較的偏ったスタンスで注目作品の感想をお届けする。
第一回目は、今クールで一番の話題作と言っていいだろう『とある科学の超電磁砲』(以下、レールガン)。
この作品は、鎌池和馬著のライトノベル『とある魔術の禁書目録』(アスキー・メディアワークス/2008年にアニメ化)の外伝作品である漫画『とある科学の超電磁砲』(同)が原作で、主人公は本編の人気キャラクター御坂美琴。って、メディアミックス作品は、説明が難解で困る。とにかく、超能力実験を行う学園都市を舞台にミニスカの下に短パンを着込んだ、電撃使いの人気ヒロインキャラクター御坂美琴と、彼女を「お姉様」と呼ぶ後輩の白井黒子を軸に展開される物語で、美琴のちょっと変わった日常を描きながら、秘密裏にうごめく学園都市の暗部に関わっていくというのが大まかなストーリー。現在第6話で、これから学園都市の内実が徐々に明かされていくことになりそうだ。
ストーリー設定は、アニメにはよくある異能力バトルものの類型で特別に斬新というわけではないが、明らかに他の作品より面白い。というか前作であり原作でもある『とある魔術の禁書目録』よりも痛快な活劇に仕上がっているように感じる。御坂美琴と白井黒子以外のサブキャラもかわいすぎる! という揺るがしがたい事実(!)を除いても、他の作品との違いがありそうだ。
超能力・異能を扱う作品では、異能力によるバトルと決着がそのままドラマにとっての盛り上がりに直結するように、自分の気持ち・主張の強さが能力の勝敗を決する構成になっていることが多い。「確かに、お前の言うこともわかる……。だけど、俺は、こいつらとその世界を守る!」とか叫ぶと、なぜかパワーアップして勝つというような、流した涙の量だけ強くなるスポ根ものの系譜というわけだ。
ところが『レールガン』は最新6話まで視聴した時点で、このスポ根路線ではない物語の紡ぎ方をあえて選んでいるように見える。ズバリ、『レールガン』は時代劇。しかも人情系。
第1話では”ジャッジメント”という自治組織に加入している黒子の案内で街を散策中に事件が勃発する。自治組織のメンバーとして、その場を仕切ろうとする黒子にいったんは従う御坂だが、知り合った一般人・佐天が犯人に蹴り飛ばされたのを見て激昂。「ここからは私の個人的な喧嘩だから」と宣言して事件を圧倒的な能力で解決する。その戦闘シーンの台詞回しは以下の通り。
犯人(倒れている状態から顔だけ上げて)「思い出した! (中略)最強の電撃使い(エレクトロマスター)が!」
黒子「そう。あの方こそが学園都市230万人の頂点、7人のレベル5の3位。(中略)最強無敵の電撃姫ですの!」
その後、逮捕された犯人に黒子が「しばらく自分を見つめ直して、もう一度出直してくださいな」と説教をすると、がっくりとうなだれた犯人が連行されていく。6話では、気まぐれを起こした御坂がジャッジメントの仕事にこっそり潜入。慣れない組織行動に戸惑いながらも問題を解決したが、正体がバレて「御坂美琴……って、あのレールガン!?」と言われて照れ笑い。
230万人を誇る学園都市でナンバー3の実力を持つ超有名人だが飾らない御坂――これ、そのまんま『暴れん坊将軍』じゃないか? ジャッジメントを、火消しの自治組織・め組に読み替えるとさらにしっくりくる。犯罪者や悪人に対して法律や権威を振りかざすのではなく、あくまで友人や被害者に対しての感情移入で動く御坂の行動原理も「暴れん坊将軍」と重なる。クライマックスでは、コインを帯電させて発射する決め技”レールガン”(語義通りの電磁投射砲ではない)で敵を一刀両断し、溜息をつきながら髪をかき上げる御坂のバックに「成敗!」とか「またつまらぬものを斬ってしまった……」という声が聞こえてきそうだ。唐突に起こりすぎる事件(遊んでいたらいきなり目の前で銀行強盗が!)も、違和感なく観賞できてしまうのは、日本人にとって馴染み深い人情話のルールに沿って事件が配置されているためではないだろうか?
この『レールガン』の監督、長井龍雪(ながいたつゆき)はおなじくライトノベル原作のアニメ『とらドラ!』(2008)の監督をつとめ、深夜枠アニメで流行のハーレム系ラブコメのように偽装しながら骨太の成長物語を描いたことも記憶に新しい。原作の持つ演出上の派手さを、シーンごとにハリウッド風や日本映画風に器用な画面構成の変化を加えながら再現し、ストーリーテリングの面では重厚に展開していく構成で好評を得た彼と、『妄想代理人』(2004)や『鉄腕バーディ DECODE:02』(2009)などのSFテイストの作品から、『青い花』(2009)の繊細な作品までシリーズ構成を手がけた水上清資(みなかみせいし)のタッグが、キャッチーさを保ったまま、時代劇というベタなフォーマットで作品を届けることに成功させているように感じる。
ってことは、御坂が松平健なのはまぁいいとして、ツインテール美少女の黒子は北島のサブちゃん……!? やっぱり時代劇より、美少女いっぱいの『レールガン』のほうが、俺、見ていて楽しいわ……。
(文=久保内信行)
来年が待ち遠しいね
これを読まずしてアニメは語れないゾ★