旅先の甘い誘惑に注意 実はドラッグ犯罪に厳しい東南アジア

※イメージ画像 photo by PentaxFanatiK from flickr

 10月30日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、本籍地が青森の元看護士・竹内真理子容疑者が末端価格3300万円相当(4.7㎏)の覚せい剤を持ち込もうとした容疑で税関当局に拘束された。竹内容疑者は今年に入ってからドバイ、トルコ、香港などを行き来しており、いわゆる「運び屋」だった疑いが強まっている。マレーシアは薬物犯罪に厳しく、有罪が決まれば絞首刑、つまり死刑となる可能性が高いという。

 一方日本では、薬物犯罪に対する量刑は以前よりは厳しくなったものの、営利目的での密輸は最高で無期懲役。使用目的の密輸なら10年以下の懲役。国内での個人的な所持・使用で初犯ならば確実に執行猶予が付き、薬物で逮捕された芸能人が当たり前のように復帰する。そんな薬物犯罪に甘い日本にいる我々は「死刑」と聞くと驚いてしまうが、実は世界的には珍しいことではない。

 マレーシア、韓国、中国、タイ、フィリピン、インドネシア、エジプト、インドなど、薬物犯罪の最高刑が死刑の国は珍しくない。マレーシアでは1989年にイギリス人が1人、90年にも女性1人を含む香港市民8人が絞首刑を執行されており、3年前には中国で日本人男性に死刑判決が下っている。

 昔からアジア諸国は麻薬が入手しやすいといわれており、薬物使用を目的とした旅行者が日本をはじめ世界中から訪れていた。インドやタイなどのバックパッカー向け宿泊所ではドラッグの使用が日常的に行われ、カンボジアでは市場でオバチャンが大麻を量り売りしていたりと、日本国内では考えられない光景が繰り広げられていたのだ。さらに、仮に逮捕されてもアジアなら警察官にワイロを渡せば見逃してもらえるという認識も広まっていた。

 しかし、近年はアジア諸国の経済発展とともに、そんな前時代的な手口は通用しなくなった。各国とも悪しきイメージを払拭するため薬物関連犯罪の刑罰が重くなり、個人的な使用・所持でも数年の懲役刑となるばかりか、警官にワイロを贈ろうとした旅行者に買収の容疑までついたケースもある。「日本じゃ捕まるから海外で」などという一昔前の認識でいると、取り返しのつかないことになってしまうのだ。

 麻薬犯罪への厳罰化は世界的な流れではあるが、そうでない国もある。有名な例ではオランダにおける大麻。同国でも大麻は違法だが、個人的な少量の所持に限り合法となっている。首都アムステルダムには大麻を売るコーヒーショップが数百店舗あり、数百円でジョイント(タバコのように紙で巻かれた大麻)が販売されている。これは、大麻の使用を黙認することで、ヘロインや覚せい剤などのハードドラッグの使用を防ごうとする政策である。驚くことにイギリスやドイツなども大麻に関しては同じような政策を取っており、個人的な所持ならば警告を受ける程度で起訴はされない。

 さらに上をいくのがメキシコだ。個人的な少量の所持であれば、大麻やLSDなどのソフトドラッグだけでなく、ヘロイン、コカイン、覚せい剤といったハードドラッグまで合法化された。麻薬密売組織がひしめくメキシコでは、組織間の抗争で年に約6300人の死者を出すなど「麻薬戦争」が激化しており、政府は軍隊を出動させて取り締まりに当たるなど、密売組織の壊滅に本腰を入れている。そのため、個人の所持などにはかまっていられないのが現状で、麻薬対策の予算や人員を全て組織犯罪に向けるために合法化に至った。

 このように各国の文化や事情によって、ドラッグ犯罪に対する扱いは様々だ。とはいえ、日本人であれば現地の法律だけでなく帰国してから日本の麻薬取締法も適用される。運び屋などは論外だが、旅行者も「旅の恥はかき捨て」と甘い誘惑にさそわれて人生を台無しにしてしまうことは絶対に避けなければならない。

(文=ローリングクレイドル)

『裏アジア紀行』クーロン黒沢(幻冬舎)

 
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