あくまでも、宅さん側の言い分です

宅八郎、書類送検も「謝罪はしない」「起訴も覚悟の上」

宅八郎氏、近影/photo by Makoto Tanaka

 サイゾー本誌でもお馴染みのアドバタイジング・ディレクターでオタク評論家・宅八郎氏が、web上で音楽評論家で会社員の男性に対して「処刑宣告」「殺す」「地獄行き」などと書き綴ったとして、2009年10月23日、脅迫容疑で書類送検された。

 事の発端は、この男性が執筆し、2007年11月5日付でwebサイト「All About」上に掲載された「アキシブ系~侮れないアニソン」という記事(現在は削除済)。この記事では、秋葉系と渋谷系とのミックスともされる「アキシブ系」というカルチャーのジャンルについて解説しており、その中で【秋葉系属性】のステレオタイプとして「チェックのウールシャツ(ブランド不明)」「電車男」と並んで「宅八郎」という名前が挙げられていた。

 当該記事が掲載されて1年以上経過した2009年初春に宅さんは偶然「アキシブ系」という言葉を調べ直したところ、初めて記事を読んで自身の名前がそこに記されていることに気付いた。この記事を執筆した男性と宅さんは2007年以前から知り合いで、関西で何回も会って食事もし、イベントで共演したこともあった。しかし当該記事について何も聞かされていなかったため「そりゃないだろう」と不義理を感じたという。共通の友人を介して宅さんは男性に「この記事には問題がある」と伝えたところ、男性からメールにて返信が届いたが、その内容に宅さんは納得がいかなかったという。本人に当時の状況を聞いた。

「今回の件は当然、生命を絶つという意味での殺人予告ではありえません。また、「脅迫」容疑ですが、ボクが秋葉系と揶揄されて憤慨し、怨恨の線から犯行に及んだとか(笑)、そういうわけでもありません。彼が書いた記事の中の秋葉系の定義が間違っているのではないかと思ったことと、また、記事全体に秋葉系を差別的文脈で扱っている印象を受けたので、問題だと感じたんです。一般人がブログで何を書こうが構わないが、彼は音楽評論家を名乗っているしテクノポップという分野では著名な方です。All Aboutというサイトも、”ジャンル別にその道のプロ、専門のガイドが編集している”と謳っている以上、専門家の言葉となるわけで、それは正すべきだと思いました。しかもその記事はWikipediaからも外部リンクされていましたから、影響力を考えざるを得なかったんです」(本人談)

 宅さんの言い分によれば、当初の段階では話し合いによって「訂正や注釈を加えるなり何なりすれば良いものだった」。だが、男性側及びAll Aboutが当該記事をまるごと削除してしまったことで、「1年以上一般読者に読み続けられていた事実がある以上、むしろ流れや論点、問題が不明確になってしまう、書き逃げじゃないか」と怒りが芽生え、男性の追及批判を開始し「求めていなかった削除でその原稿を無かったことにするなら、何ならAll Aboutの全面閉鎖をすれば良いとさえ指摘するに至った」のだと言う。

 男性は、今年3月19日23時30分頃に宅さんが書いた、mixi上の日記に「処刑宣告」「殺す」「地獄行き」など不穏な言葉が並んだことから、翌日、神戸の自宅で兵庫県警の警察官に相談した旨を宅さんにメールで伝えた。だがその後、宅さんはmixi上に掲載していた内容をアメーバブログやココログにも転載、追加原稿を発表し、男性へ「公開質問状」を投げかけて回答を求め続けたこともあり、8月までにあらためて被害届を提出するに至った。

 都内にある宅さんの自宅には、兵庫県から8人の捜査官が訪れて家宅捜索を行ったが、これについて宅さんは「あくまで言葉のやり取りをしたかった。なのにお上に言いつけるやり方で、ボクなんかの、こんな事柄で8人もの人員を割くなんて、税金のムダ使いだと思う」と話した。

 さて、そもそもオタク評論家としての宅さんは、以前から攻撃的な発言や行動で有名。「問題だ」と感じたことに対して徹底的に追及し、応じられない場合は殺害予告のような「処刑宣告」をする。1995年には太田出版からずばり『処刑宣告』というタイトルの本を出版している。2003年には、長野県知事時代の田中康夫氏に対して、記者会見に乗り込み突撃公開質問を行い話題になったほど、自分の質問への回答を執拗に求める。その過激な表現手法は本人いわく、「作風」「芸風」だそうである。

 だが、2000年の西鉄バスジャック事件や、2008年の秋葉原無差別殺傷事件のように、ネット上で「犯行予告」をした上で凄惨な事件を引き起こす輩が出てきたことから、たとえ冗談でも、それが取り締まりの対象となる時代となった。

「ボクもそうした事件はとんでもない話だと思っています。ただボクの場合は、素姓の知れない誰かが無差別に他人を殺すという予告ではなくて、宅八郎という名前をさらした個人が不特定多数ではない(無差別とは言えない)”特定個人”に向けた表現として出しているので、それらの事件とは異なると思っています。もちろん彼は著名な音楽評論家なので、社会的公益性も考えた上です。しかし、今回のことで、表現の手法や言葉の選び方は今後研究していく余地があるかもしれないな、とは考えました。ただ、ボク自身の攻撃的な姿勢は今後も変えるつもりはありません」(本人談)

 宅さんは今回の事件についても「反省はしていない」と言い、「起訴されることも覚悟している」「謝罪するのはボクのほうではなく、相手方にお願いしたい」と述べた。元々は、発端となった記事「アキシブ系~侮れないアニソン」の内容について、著者である男性と「論争し、内容を改善していきたかった」のだと言う。だがここまで大ごとになっては、もはやそれも叶わないかもしれない。いずれにしろ、まだ自体は収束したわけではないので、今後の展開に注目したい。

 

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