長引く不況は風俗業界にも暗い影を落としている。風俗で働く女性たちといえば、高収入とのイメージが強い。かつてはOLがデリヘルに転職して、「以前の年収分が月収になった」などという話も聞かれたが、この不況でそんな高収入は、神話か伝説となりつつある。
吉原のあるソープランドに勤める女性は言う。彼女の勤務するのは、総額2万8000円の大衆店と呼ばれるランクだ。
「昔は総額2万円くらいのお店でも、頑張れば月収で100万円くらいは稼げたものなんです。でも、それはもう10年以上前の話。最近は本当に厳しくて、フルで働いても30万円くらいしか稼げないことも珍しくないですよ」
また、彼女を含め複数の女性に聞いたところによれば、高級店で働けば収入も高額、とは限らないそうだ。かつては総額5万円以上の高級店は、企業の接待として頻繁に利用されていた。しかし、企業業績の悪化とともに接待でのソープ利用も激減。高級店からも客足が遠のいている。そのため、「いざ勤めたものの、お客さんがつかない」との理由で、高級店から大衆店や格安店に移籍する女性も少なくないという。
しかも、風俗で働く際には、「諸経費」は女性が負担するケースが多い。たとえばソープなどでは、「おはよう」と呼ばれる一種の権利料のようなものや、男性従業員の賞与を女性たちか積み立てる「ボーナス制度」などが残っているケースもある。また、そうした古い慣習のないデリヘルなどでも、「お茶代」と称して出勤ごとに500円から1000円を女性から徴収するケースもあったりするし、交通費やうがい薬といった衛生用具費などはすべて女性の負担である。したがって、お客がつかない、いわゆる「お茶を挽く」ことになれば、稼ぐどころか赤字である。
そうした状況で、風俗勤務とはまた別に、アルバイトなどを掛け持ちにする女性が珍しくなくなっているらしい。よく聞くのが風俗店への出勤前の時間を使ったもので、「コンビニのレジや品出し」「生協の配送前の商品セッティング」「24時間営業の弁当店」などがある。
その他、肉体労働系で頑張っている女性もいる。都内のデリヘルに勤めるAさん(31歳・主婦)は、早朝の新聞配達を終えた後、旦那さんと小学校に通う兄弟を送り出してから洗濯などの家事をこなし、それから2~3時間ほど仮眠を取ってから午後1時頃に出勤するという。帰宅は夕方7時頃だそうだ。
さらに、バツイチのBさん(34歳・デリヘル勤務)は、早朝に小型トラックでの鮮魚の配送のアルバイトをしているという。かなり力のいる仕事だが、「慣れればそうきつくはないです。ただ、夏場は発泡(スチロール)の箱が結露でびしょびしょになるのが大変」などと笑う。
反対に、「早朝に風俗で働き、その後でバイト」というケースの女性もいる。吉原の某ソープ在籍のCさん(23歳)は、「午前中はソープ、夕方から地元の居酒屋でバイト」という生活を送る。「ソープが休みの時は、昼も週に2~3回ほどコンビニでバイトしています」とのこと。
ダブルワークの多くは「風俗では足りない収入の補填」であるが、一方では将来を見越した考えの女性もいる。ある老舗ソープで働くDさんは、店でも人気上位に位置しており指名も少なくない。当然収入も「生活には困らない程度」は十分にあるのだが、それでも週に5日、ほぼ毎日設計事務所でアルバイトしているという。
「風俗の仕事は、一生続けられるわけではないですから、今のうちに経験を積んでおこうと思って。今は資格があっても、実務経験がないと就職も難しいですから」
彼女は以前、勉強して医療事務の資格を取ったものの、「資格があっても経験がないとダメ」とことごとく断られた経験を持つ。
「兼業」にいそしむ女性たちの思いはさまざまであるが、風俗が「身ひとつで高額収入」とは限らないようである。
(文=橋本玉泉)
『お金はないけど時間があるなら副業をはじめなさい!』
中野 貴利人(著)/クロスメディア・パブリッシング
どの業界も厳しいようで……