──なめ子さんが旅行に行きたいと思う部分は何かあるんですか?
辛酸 やっぱり珍スポット的なことろは好きなので、そういう部分ですかね。別府へ家族旅行に行ったときも、家族に水族館に行ってくるってウソついて秘宝館に行ったり(笑)。珍スポットに1カ所は行かないと気がすまないというか、作られた観光地よりもキッチュで楽しいところに行きたいですね。
編集長 秘宝館だったらクジラの性器とか飾ってあるんで、「水族館に行った」っていうのもあながちウソではないですね(笑)。
辛酸 でも、秘宝館も少なくなっちゃったんですよね。
編集長 観光地が寂れてきた原因として、若い人たちが来なくなったのもありますけど、大きな原因は団体旅行が減ったということも耳にします。
辛酸 そして廃墟になった秘宝館の蝋人形にカビが生えて……。
編集長 12号で紹介した山口の秘宝館廃墟、 あれは悲しいですね(苦笑)。
辛酸 淡路島の「謎のパラダイス」もそうですけど、老夫婦が秘宝館を経営してるって、老後の理想的な姿じゃないですか。アートのような形で盛り上がれば良いんですけどね。おじいさんが変なものを集めてきて、奥さんが仕方なく協力してるっていうのがまた良いですよね。
編集長 秘宝館にはキッチュさを求めて行かれるんですか?
辛酸 そうですね。あとは、刺激を求めてというのもあります……。
編集長 日本ってやっぱり、性が抑圧されてますよね。だから、そういうのが展示されてるから行くみたいな……。スゴいチープなギミックとかありますからね、秘宝館には。未だに手で回して下から風が出て、スカートがめくれるっていう……。小学生の夏休みの工作で作れそうですけど、あれが良いんですよね。
辛酸 廃墟の話で、「幽霊ホテルに若者が夜中100人くらいたむろしていた」って話を聞いたことがあるんですけど。
編集長 100人もいたら床が抜けることの方が怖いですよね(笑)。「ワンダーJAPAN」は心霊って煽ったりはしないんですよ。目に見えないものは、そのまま分からないで良いってやってる。そこら辺は、「ムー」(学習研究社)さんなり得意な雑誌にまかせればいいやってスタンスで作ってます。
辛酸 男性は苦手な人も多いみたいですからね。
編集長 軍艦島はスゴいらしいですけどね。全然信じない人が行っても、何か聞こえてきたりしちゃうみたいです。僕は信じないですけど。
辛酸 協力者の方たちが、肉体的、精神的に大変だったというエピソードを聞く機会はあるんですか?
編集長 やっぱり、軍艦島なんかは目の前に何トンくらいもある石が落ちて来たりだとか。「ワンダーJAPAN」を握りしめたまま人知れず亡くなっている方もいるんじゃないかと心配です(苦笑)。樹海や洞窟はやっぱり危険ですよね。中には自衛隊払い下げの酸素濃度計? を持ちながら行くような本格的な人もいる位で、危険なことはありますよね。
──宗教系も載せてますけど、掲載して怒られたことはあるんですか?
編集長 宗教系は怒られたことはないですよね。基本的に敷地外から撮影の場合、外観に関しては許可は取っていないです。天理教本部に行った時は、神殿内のどこまで撮って良いか確認しましたけど。スゴい不思議なところでしたよ、天理教の中心部。みんな手をヒラヒラさせながら何か歌ってるんです。小さい頃から教え込まれているせいか、その手の動きがやたら滑らかで、宗教の力はスゴいなって。
辛酸 行かれた中でオススメのスポットは?
編集長 (福井県にある)越前大仏が300か400億くらいかけたのに、大仏殿の中には誰もいなくて。土曜の昼くらいに行ったんですけど大仏独り占めみたいな(笑)。最初は拝観料3千円くらい取ってたみたいなんですけど、人が全然来なくて2千円、千円と下がり、今では500円で拝観できます。さらに第3日曜はタダで開放してるっていう。どれだけ人が来ないんだって話なんですけど(笑)。あと、(広島県の)源宗坊寺も良かったですよ。広島の山奥の方にあるんですけど、スゴいキュートな真っ黒の大仏なんですよ。ここは、みんなに行って欲しいですよね。
辛酸 この本はどの地区で売れてるとかあるんですか
編集長 首都圏がやっぱり多いですよね。東京とか大阪が、どこの地区の特集でも売れますよね。
なめ子さんの記念すべき初単行本!
──そういえば、『ニガヨモギ』も担当されていたとか。
編集長 2000年ですかね。もう、9年前。
辛酸 本としては初めてです。その節は本当にありがとうございました。
編集長 ご本人を前にあれですけど、あのときも単行本の企画がなかなか通らなくて、勢いで通しました(笑)。
──なめ子さんはその時は何も出されていなかったんですよね。
辛酸 職歴は色々あったんですけど(笑)。
編集長 あちこちの雑誌に寄稿されていて、いつそれらがまとまって単行本になってもおかしくはなかったんですけどね。
辛酸 もう色んな雑誌バラバラで、左から読むのも右から読むのもあって。
編集長もう、掲載形態がメチャクチャで1冊にまとめるのが大変でしたよ(笑)。そんなに絵も安定していなかったというのもあって。でも、スゴい面白かったですよね。
──『ニガヨモギ』の時は直接コンタクトを取ったんですか?
編集長 そうですね。ピョコタンさんとか若手の漫画家さんの飲み会があって、そこで紹介してもらって。同人誌というかミニコミ誌を見せてもらったりして、スゴい面白いなぁと思ったんですよ。
──最初になめ子さんが「オールカラーはお金掛かりそう」っておっしゃっていましたよね? 一番最初って自主制作的に作られていたと思うんですけど、やっぱりお金が掛かるっていうことが気になるんですか?
辛酸 やっぱり、カラーが入るとお金が掛かるって思いますよね。昔、ちょっと血迷ってグラビア写真集を出した時も、カラーグラビアがあったから印刷代が15~6万円掛かった記憶があって。
編集長 水着の写真集も配ってましたよね?
辛酸 売ってたんですよ、あれ(笑)。
編集長 そうか(笑)。どのくらい売れたんですか?
辛酸 300~400冊しか作らなかったんで、全部売れました。
編集長 その頃から面白いこといっぱいやってましたよね。人生すごろくとか作ったり。
辛酸 ありがとうございます(笑)。
編集長 でも、勘ですよね。この人は伸びるっていう・
辛酸 勘でこういうジャンルも? 萌えにも色々ありますよね、ダムとか団地とか。
編集長 世の中に出てるものとは違うものを求めてて、うまく引っ掛かったのかなって。
──なめ子さんが「ワンダーJAPAN」を作るとしたら、どういうものを集めますか?
辛酸 変な方が良いんですけど、キノコがある建物ばっかり集めたら面白いですよね。
編集長 あとは、性的にへんな形をしてるものを集めても面白いですよね。建築界ってくだけた話をしないじゃないですか。コクーンタワーってなんかエロい形をしてるねって話ができないじゃないですか。そういう、話ができる雑誌があっても面白いんじゃないかと思いますけど。
辛酸 元麻布ヒルズもそうですよね。
東京支社ビル
編集長 実際、有名な建築家もおっぱいハウスを作ってしまったりとか、アーティストもエロを混ぜたりすることもあるんですけどね。
辛酸 「ワンダーJAPAN」の情報がカーナビとかに入ってると良いですよね。こういうところって電車で行きづらい場所が多いんですよ。
編集長 確かに。この夏に「ワンダーJAPAN」の公式モバイルサイトをオープンしたんですが、携帯のGPSと連動させて近くの珍スポを探させたりといろいろやってます。
──この雑誌って海外で出す予定はないんですか?
編集長 今のところはないです。でも、外人はこういうの好きだって聞くんですよ。京都奈良特集も書店でかなり外人が買うことも多いみたいですよね。廃墟とか分かって買ってるのかな……。
辛酸 解説に英文があっても良いんじゃないですか?
編集長 次の号からは、とりあえず物件名全部に英文を入れようとは思っています。今のままでもとあるイギリス人がパラパラと観ていてドキドキするって聞きますし、パリ在住の現代アーティストに褒めてもらったりもしているので外人でも全然大丈夫なのかなと思います。
辛酸 これを観ると本当にアーティストの人から応募とか来そうですよね。
編集長 アートとして作ってないダムのほうが芸術的で見応えがあって、アートって何なのみたいなのがあります。ちっとも面白くないアートもありますから。
辛酸 ガイドで温泉地とセットとかあると女性的には良いですね。霊的なものを捕まえちゃっても温泉デトックス! みたいな。日本全国、色々と景気が大変だから廃墟が生まれるんですね。
編集長 そうですね。紹介する物件は増えてるんですけど、考えてみたら日本経済がヤバいんですよね。夕張行ったときも本当にヤバいですよ。街全体がシャッター街みたいな感じで、誰もいなくなった街って本当にあるんだなって。
辛酸 誰もいない町……と思いきや窓からおばあさんが覗いてたり……。
編集長 そういうのはないですけど(笑)。そういう街がいたるところにあるのかって思うと……。
辛酸 一人勝ちの街だったり、ショッピングモールがあると問題なんですよね。
編集長 なめ子さんはB級グルメとかどうなんですか?
辛酸 B級はそんなには知らないですかね。便器の形のアレぐらいしか……。
編集長 ク・ソフトっていう悪趣味なソフトクリームですね。最近寂れた感の強い清里で一番流行ってたのはあそこですからね(笑)。
辛酸 清里まで行ってクソですからね……。
──自分で何が良いか分からないときってどうするんですか?
編集長 第一印象は大事にしてますよね。パッと見て面白いのは載せるし、迷ったときはだいたい面白くないんですよね。
辛酸 写真がインパクトありますからね。
編集長 工場とか外人にも受けてるみたいですけど、向こうにも廃墟を楽しむ文化があるみたいですからね。日本の廃墟はウェットで、苔むしたり花が生えたりして綺麗なんですよね。コンクリートでも、緑になったりしてて。
辛酸 廃墟探検したくなったら、どういう持ち物が必要なんですか?
編集長 ハイヒールやスカートはやめた方が良いですよね。あとは、虫除けスプレーは絶対に必要ですね。ライトとかはあった方が良いとは思いますけど。
辛酸 方位磁石とか?
編集長 どこに行こうとしてるんですか(笑)? 方位磁石は樹海では効かないですけど、携帯と予備バッテリーは持って行った方が良いですね。あとは、ひとりで行かないことが鉄則ですね。
辛酸 探検してて、誰かと遭遇ってありますか?
編集長 カメラを持った同類はいますね(笑)。
辛酸 ヤンキーに絡まれたことは?
編集長 そうならないように気をつけてはいますけどね。バイクがある所は近付かないとか。だから、怖い経験はないですね。
辛酸 今後は、どんなものを取り上げていく予定ですか?
編集長 今は公園遊具をはじめてみたんですけど。身の回りにあるものを見直してみたいなと思っていて。公園の遊具を作っている人が好き勝手に、というと語弊があるんですけど、奇抜な発想で面白く作ってるものが多いので。
辛酸 知られざる遊具アーティストがいらっしゃると?
編集長 多分、一点ものが多いと思うので。逆に面白いものがあると貴重だなって思って。
辛酸 女性も好きですもんね。
編集長 早速、女性から投稿もありますからね。廃墟みたいに怖くないし、誰でも探せますから。逆に公園で男性がひとりでカメラ持ってると危険な目に遭うかもしれないので、気をつけていただきたいですけど。
辛酸 あぁ、ロリ。滑り台みたいなところからカメラで女のコを撮ってる男性を見かけたこともありましたが。
編集長 どっちか分からないですけどね(笑)。
辛酸 私も写真撮ったら送らせていただきます。
編集長 心霊じゃないやつでお願いしますよ(笑)。
なめ子さんの原点
「ワンダーJAPAN 12 (2009 SUMMER)」三才ブックス
旅に出たくなるよね