デザインやアートって単語は実に使い勝手のいいものかもしれない。現代アートでエグいヌードの油彩画があったとしても、それを「素晴らしい!」と絶賛する評論家がいたりする。または、シンプル以外のナニモノでもない真っ白なデザインを”ラグジュアリー”なんて謳っちゃう。そんな、オシャレで一見カッコいいとされているものに対して、正々堂々と「かっこわるい」と言い放つ人がいる。
それが、都築響一。
といっても、彼のキャリアだって十分カッコいい。学生時代から「ポパイ」(マガジンハウス)や「ブルータス」(同)でアート系の記事を担当、上智大を卒業してからも多くの雑誌で活躍してきた。そんな都築さんの”オモシロい視点”が注目を浴び始めたのが、東京庶民のフツーの散らかった部屋をまとめた『TOKYO STYLE』(ちくま文庫)あたりから。一見、小汚い部屋だけれども、住む人のこだわりが詰まってる、インテリア本なんて括りじゃおさまらないカルチャーがそこにはあった。さらには日本各地の一風変わった名所を訪ね歩く、超個人的巡礼本『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(同)では、なんと写真界の権威ある賞として名高い木村伊兵衛賞受賞まで受賞してしまった。だからといって、アーティスティックな写真を追求するわけでもない。彼が追求するのは”オモシロさ”、これのみ。
スクラッパー(『デザイン豚よ木に登れ』より)
そんな都築さんの新刊が発売された。『デザイン豚よ木に登れ』と『現代美術場外乱闘』(ともに洋泉社刊)は、雑誌「アイデア」(誠文堂新光社)、「ART iT」(紀伊國屋書店)で連載されていた伝説的コラムを再編集したものだ。前出のデザイン、アートというキーワードを”個人的解釈”で紹介していく、かなりパンチのある内容になっている2冊。『デザイン豚~』に関しては主にデザイン寄り、そして『現代美術~』ではアート寄りな都築目線のホンモノがお品書きには並んでいる。いずれもオールカラー224ページと、ボリュームもたっぷり。
『ボイン手帖』の表紙。カバーを取ると無地の
ビニール表紙になる。他に『ハッスル手帖』
『ピンキー手帖』『ウキウキ手帖』なども。
(『デザイン豚よ木に登れ』より)
本書の中身をちょっとだけ。『デザイン豚~』はピンク映画ポスターやバンコクで見つけたレコジャケ、エアブラシでぼかすことによって逆に浮かび上がる見えそで見えない魅惑のエロ……といった、B級かもしれないけど、ホンモノの職人技が光るラインナップの商品をこれでもかと掲載。昭和な映画のスチール写真でよく見かけていた”人工着色”技術の回では、なぜか「座頭市」ってどれも白目向いてるのね? という謎な見どころも。『現代美術~』では、全国各地に点在していた秘宝館巡礼から幕を開け、ラブホ、イメクラ、オトナのおもちゃなどなど、現代アートのインスタレーション作品もビビっちゃうほどの迫力あるビジュアルが目白押し。さらには、山手線のコーポレートアートやアウトサイダーアートなんかもしっかり自己解釈でカバーしている。これらはしっかりとした取材により執筆されていて、都度、制作者や関係者のコメントやインタビューが載っているので、読み応えもバッチリ。
カッコいいカタカナ肩書きではないけれど、頑ななこだわりとでかいロマンを持ったこの本に登場する人々を、あとがきでは「幸せな部外者」と賞している。今まで感じていた”カッコいい”って、知らない間に誰かに植え付けられた偽の価値観じゃない? そんな気にさせられる。
本書はまさにデザインとアートの新解釈カタログ本。でも書店に行ったら、きっとおしゃれアートブックのコーナーに並んでるんだろうな、絶対。
カウント内で暴れるだけ暴れたい!
飛べない豚はただの豚?
都築 響一(つづき きょういち)
写真家、編集者。東京都出身。上智大学卒業。「POPEYE」「BRUTUS」などでフリーランスの編集者として活躍後、写真家として活動を開始。写真集『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(筑摩書房)で第23回木村伊兵衛写真賞受賞。