品番:PDV-029/監督:神田うさぎ構成編集/時間:240分
2009年7月、1本の映画が作られた。タイトルは『あんにょん由美香』。05年に急逝したAV女優・林由美香の青春を追う異色のドキュメンタリー作品である。監督の新鋭、松江哲明とは以前から知り合いだったこともあり、東中野にあるミニシアター『ポレポレ東中野』にて、上映後のトークショーに出演してくれないかという依頼を受けた。テーマは「AV女優としての林由美香」。もう公開が始まって1カ月以上、さらに夜8時半スタート、終了10時半というレイトショーにも関わらず、客席はほぼ満席だった。さらに、その内ほとんどの方々がアフタートークにも残ってくださった。そんな中、松江と共に「林由美香が如何に自由な魂の持ち主だったか」を話した。
終わってロビーにて、熱心なファンの方々と言葉を交わしていると、不意に背後から「──東良さん」と声をかけられた。
振り返るとAVを引退して10年、そこには以前にも増して美しくなっていた小室友里がいた。
「友里ちゃん、どうして此処に?」
と思わず言ってみたものの、それはあまりに久しぶりの再会だったからであり、冷静に考えれば何の不思議も無かった。彼女こそある意味で、最も林由美香に近い女優だったのだ。
林由美香と小室友里──2人は奇しくも芳友舎(現h.m.p)というメジャー・メーカーからデビュー。典型的なAVアイドルとしてそのキャリアをスタートさせるものの、由美香はまずカンパニー松尾、続いて平野勝之と私生活で恋人関係となり、松尾・平野共に彼女とのプライベートを作品化したドキュメンタリーAVを発表した。特に平野と共に東京から北海道礼文島まで自転車で旅をするという作品、『東京~礼文島41日間・自転車ツーリングドキュメント わくわく不倫旅行』(V&Rプランニング)は、後に『由美香』と改題、劇場公開もされて話題を呼んだ。
一方、小室友里も芳友舎専属時代は清楚で淫らなお嬢様といった、ウェルメイドなAV作品が多かったが、アリスJAPAN、アトラス21、宇宙企画と他メーカーに出演するようになると、可愛らしさを持ちながらも積極的にセックスを楽しむ自由奔放さを発揮する。特にその魅惑的なお尻を挑発的に振り、男優に悲鳴を上げさせるほどエキサイティングな騎乗位は、AVファンを狂喜させた。
そして引退直前はやはり平野勝之とコンビを組み、複数の人気男優を相手に「恋多き女」なプライベートを明かされる『聖★痴女』(アリスJAPAN)、林由美香を追随するような自転車ツアー作『ザ・連続淫行』(アトラス21)という画期的なコラボレーションを見せ、平野の盟友でもあるバクシーシ山下が監督した『小室友里としてみませんか?』(V&R)という作品もあった。
そして引退作『Last Scene』(アリスJAPAN)は、やはり平野勝之によって締めくくられた。
僕は彼女に2度、長いインタビューをさせて貰い、それは現在発売中の『AV黄金列伝~ワタシは、どうして、あの場所に、いたんだろう。』(イースト・プレス刊)にも収録されている。また、当コラム担当・沢木毅彦さんと共同脚本を書いた『監禁女学園バスジャック』(h.m.p)では、当時まだ男優として活躍していた、二村ヒトシ演じる犯人の愛人役という、クールな悪女を演じてくれたりもした。しかしそういった仕事よりも今懐かしく想い出すのは、カンパニー松尾やバクシーシ山下がいたV&Rプランニングと、平野勝之も在籍していた高槻彰率いるシネマユニットガス、この二つの会社が毎年共同で催していた忘年会だ。居酒屋での一次会が終わり二次会の会場へ向かう間、小室友里は僕と腕を組んで歩いてくれた。可愛くてセクシーで魅力的なんだけれど、反面とても男っぽくサッパリとした女の子、20代前半の彼女はそんな印象だった。
99年冬、平野勝之は『由美香』から始まったいわゆる<北海道三部作>を完成させるべく、今度はたった一人極寒の北海道へ自転車で向かう。それは後に『白~The White』という名作ドキュメンタリーとして結実するのだが、その際、前述の『ポレポレ東中野』階上にある酒場で壮行会が行われた。そこには小室友里もいたし、林由美香の姿もあった。残念ながら由美香ちゃんは亡くなってしまったが、小室友里は35才になった今、20代の頃よりも美しく輝いている。
彼女は引退後、インディーズ・レーベルからCDを4枚リリース。歌手、舞台女優、ライターとしても活躍した。2005年に結婚。しばらくは主婦業に専念していたが、09年秋、舞台に復帰。現在も女優・ライターとして旺盛な活動ぶりを見せている。僕はその年の冬、とある雑誌で10年振りにインタビューさせて貰った。AV情報誌ではなく中高年向け熟女雑誌だったこともあり、彼女はサービス精神を発揮してくれたのだろう、「AV女優をやって良かったことは?」という僕の問いに、「明るい性生活、かな」と悪戯っぽく笑ってみせた。「女の子ってエッチの時、あまり積極的になると遊んでる娘って思われるかな、とか恐れちゃうでしょ。AVやってそういうのがなくなった。『私、セックス好きだよ』って堂々と言えるようになった。今の旦那ともそうやって知り合ったし」と。こうやって常に本音で生きるのも、現役時代と何一つ変わっていない。
そしてご主人も当初は正直なところ、有名な元AVアイドルと結婚することに戸惑いを覚え、周りからあまり好ましくない陰口を叩かれたこともあったという。しかし──「でも最近のダンナは、飲み屋で私のことネタにしてる。『ウチの嫁、小室友里。会いたきゃ今呼ぶよ』って。そういう時は仕方ないから、私キレイにお化粧して、可愛い服着て出かけていくわけよー(笑)」。
人生のパートナーとそのような関係性を作ることが出来る、これもまた小室友里らしいというか言い様がない。
さて、本作『あのピンクファイルで魅せる! 小室友里』は、アリスJAPAN出演作の中から上記の平野勝之監督作品2本を除いた3本、『女尻』『逆ソープ天国』『人間廃業』のハイライトシーンから長尺4時間にわたり収録されている。『女尻』ではプライベートで恋人であったと噂された平本一穂相手に、ジラしにジラしまくる可愛らしい痴女を演じ、『逆ソープ天国』では現役ソープ嬢との妖艶なレズシーンも披露しているが、個人的に懐かしく観たのは『人間廃業』だ。
これは沢木毅彦・脚本、監督・長谷川九二広による人気シリーズで、毎回10人以上の男優が一人のヒロインと絡んでいくというマラソンSEXバラエティ企画である。リリースされた98年と言えば、当然バブルの時期を遠く離れ、失われた10年の真っ直中。それでも上記の平本を始め、加藤鷹、吉田潤、田淵正浩、市原克也、青木達也、大島丈といった人気男優達が大挙して登場。何とも楽しげに小室友里と絡み合っている。それはセックス、乱交というよりも良い意味でスポーツの如く清々しい。
昔は良かったなんて年寄り臭い台詞は口にしたくないが、それでも、小室友里が現役だった頃のAVは楽しかったな──そんな風に思えて仕方ない。
昨年の冬にインタビューさせて貰った際、現在の人妻熟女AVブームを背景に、僕は「今、友里ちゃんが復活したら大騒ぎになるよ」と言ってみた。すると小室友里は笑ってこう答えたものだった。「それは200%ないなー。だって、私はあの頃のAVが大好きだったんだから──」と。
追伸、このコラムを書いている途中、平野勝之より電話があり、『白~The White』に続く約10年振りになる新作ドキュメンタリー映画を完成させたと知らされた。
(文=東良美季)
*文中『逆ソープ天国』『人間廃業』『聖★痴女』は、VHS時代バビロン(レーベル名)から発売されました。
◆アリスJAPAN『AV黄金期・復刻レビュー』詳細はこちら。
30代にとっては歴代No.1女優との声も
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