山林の中にひっそりとたたずむ館に集まり、仲間がひとりずつ消えて殺されていく……なんてシチュエーションは小説や映画でよく見かける設定だ。綾辻行人氏のデビュー作『十角館の殺人』はブームを巻き起こすほどヒットしたし、伊丹十三が総指揮を務めた『スウィートホーム』なんかも該当するだろう。
こういったシチュエーションは「密室」ものとされ、人気ジャンルとして量産されたがゆえに、いまでは目新しいものとは言えなくなった。「密室」ものの発展系として、映画の『CUBE』や『SAW』に代表されるソリッドシチュエーションスリラーがあるが、同様に量産されることで飽和状態となっている。
しかし、そんなソリッドシチュエーションスリラーという言葉が生まれる前の2000年に、「密室」絡みのサスペンススリラーとして注目されたエロゲーがある。SPDからリリースされた『黒姫』だ。
『黒姫』はキャンプ中に遭難した男女7人が、山中で偶然見つけた洋館で雨宿りをさせてもらうのだが、そこで様々な不可解なこと起こり、やがて悲劇が起こるという典型的な密室ものだった。つまり、いまでいうソリッドシチュエーションスリラーを先取った作品だったのだ。
発売当時は人を選びそうな重苦しくて陰鬱なPVもあってゲームは大ヒットと言えなかったが、それなりに話題となった。そのおかげか、2002年にはディスカバリーによりエロアニメ化されている。
以下があらすじだ。
湖畔のキャンプ場にやって来た主人公ら7人は、雨の山中で道に迷ってしまうが、何かに惹きつけられるようにたどりついた大きな洋館で雨宿りをさせてもらうことにした。
誰かいるような気配がするのだが、静まり返った館内。7人は館の中を散策し始めるが、怪奇現象に襲われる。犠牲者が出てしまい、館から脱出しようと試みるが、主人公たちは館に閉じ込められてしまったことを知る。
終わらない怪奇現象。巨大な幼虫が女体をはい、謎のマスク男たちが女を凌辱する。
次々と襲われて死んでいく恐怖に錯乱し、仲間をレイプしてしまう者まで現れる始末。
一体この館はなんのために存在し、家主は何者なのか。その答えにたどりついたとき、主人公は驚愕の事実を目にする――。
エロアニメ版『黒姫』は基本的に原作に沿って話が進む。エロシーンに和姦はなく、ほぼすべてが凌辱だ。ゲームではせっかくのシチュエーションが活かしきれず謎解き要素が薄かった。しかしエロアニメ版では改善されており、逆にストーリー重視作品となっているのが特徴だ。
とはいえミステリーやトリックに目新しさはない。ご都合主義とまではいかないものの、謎解きはチープな部類に入る。それでもストーリーが視聴者にずっと謎をぶら下げるので、そこそこ楽しめてしまう。それがソリッドシチュエーションスリラーの魅力だ。
エロアニメ版もエロゲー原作も、2000年代初期の作品だ。作画やストーリーにあまり細かい気を張っても仕方がない。古典を楽しむつもりで観てほしい。
全2巻構成となっているが、ストーリーは独立していないので、2本観ることを絶対的におすすめする。ちなみに前編と後編だと制作会社が変わっているため、前後編で作画のクオリティに大きな差が生じている。それはそれで「エロアニメあるある」として楽しんでもらいたい。また原作をリリースしたSPDはこれ一本で解散し、ゲーム版『黒姫』は中古市場を丹念に漁る以外に入手困難だ。
(文=穴リスト猫)
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■『黒姫-桎梏の館- 前編』
■『黒姫-桎梏の館- 後編』