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明治43年(1910)12月頃から、東京・青山北町(現・港区)あたりに痴漢が出没するようになった。
被害者の話では、通りかかる女性に近づいては、抱きついたり、股間に手を入れたりするような行為に及び、女性が悲鳴を上げたりするとすぐに逃げてしまうのだという。
被害が増えるにつれ警察も警戒していたものの、とっさの犯行であることや、女性を背後から襲うなどのことから、なかなか犯人は捕まらなかった。
年が明けた5月になっても犯行は続き、被害者は届出があっただけでも10数名にもなっていた。この手の事件では、女性が届け出ないケースも少なくないことから、実際の被害はさらに多かった可能性は高いと思われる。
そうしているうち、44年6月にまた女性が被害にあった。被害者は20代の女性教師だった。
だが、その女性教師、身体に触ってきた痴漢の手を握ると、その人差し指に噛みつき、思い切り力をこめて、なんとその指を噛み切ってしまった。
思いがけない事態に、痴漢はあわてて退散した。その後、女教師は噛み切った指を持って警察に届け出た。
これによって、捜査は一気に進んだ。警察が近隣を調べると、はたして右手の人差し指を負傷した30歳の独身男が見つかった。そして、傷と女教師が届け出た指がピタリと一致した。これが証拠となり、犯行から5日目に男は容疑者として逮捕された。