最近、エロ業界で話題になっているテーマがある。それは「催眠」だ。
「催眠」をテーマとしたAVのリリース数は目に見えて増加しているし、さらに今年に下半期に入ってからはさらに拍車がかかった印象である。催眠だけをテーマとしたレーベルも立ち上げられ、さらには同人AVなども製作されている。
実際に何本か見てみるたが、きちんと予備催眠を施すなどかなり本格的な作りで、楚々とした美少女が術師の合図で淫乱に豹変する様子など、テレビのバラエティー番組などよりも余程リアリティーがあり、十分に興奮させられるものだった。
しかし…どうして、今「催眠」ブームなのだろうか。
大正年間の最初の流行以来、日本では度々催眠術のブームが起こってきた。昭和三十年代の藤本正雄の『催眠術入門』やアーサー・エレンの登場。初代・引田天功が牽引した昭和五十年代。最近でもマーチン・セント・ジェームズのテレビ番組が話題となったのは記憶に新しい。エロ業界においても、ある程度の年齢の人だったら『A女E女』(フジテレビ系)を覚えているのではないだろうか? 今は作家として有名になった松岡圭祐などの催眠術師が登場して女の子の集団に施術を行うと、太鼓や木魚の音にあわせて次々に悶え始め、テレビカメラの前であられもない姿でオナニーを…あの映像は衝撃的だった。
「やっぱり、女の子を自分の意のままに動かしたいという願望が男にはあるじゃないですか。王様ゲームとか。そんな状態で、女の子にエッチな悪戯をしてみたいっていう夢が叶うのが催眠AVの世界なんだと思いますよ。それに…トランス状態になった女の子って、普通よりもずっとエッチな感じがしますよね。普通のAVだと刺激が足りないって思う人が最近増えているみたいで、そういう層に好評なんですよ」と、AV制作者が最近の催眠の流行を分析してくれた。
確かに「透明人間になれたら…」や「時間が止められたら…」といったテーマのDVDが人気があるように、男は何時までも稚気に溢れるようなエッチな悪戯が好きなものだ。また、かつてチャネリング・セックスが一大ムーブメントとなったように、超常現象というかオカルティックな雰囲気の中に、通常では味わえないようなエクスタシーがあるのではないかという憧憬も確実に存在する。
それが綯い交ぜになって不思議な性的興奮をもたらすのではないか、という意見には確かにうなずかせるものがある。
ここまでは「催眠AV」について書いてきたが、実は「催眠」ブームはAV業界だけのものではない。どうやら「催眠風俗」「催眠音声」などというものも流行の兆しを見せているのだ。とはいえ、「催眠AV」と「催眠風俗・催眠音声」のベクトルは大きく異なる。全く正反対とも言っても良い。男性の立場が、前者では施術者であるのに対して、後者では被験者であるからだ。言い換えると、催眠術を掛ける側と掛けられる側、ということだ。
だから「催眠風俗」や「催眠音声」では、利用者は被支配的な立場になる。つまりM的なポジションである。催眠術によって恥ずかしいことを命令させられたり、女体化や幼児化、時には動物にさせられたりするのだ。これだと、鞭や縄の代わりに“言葉”のみを使用したSMプレイのように感じられるが、実際に経験した人の話を聞くと、それとは別の快感があるのだという。
「目を瞑って声だけを聞いていると、完全に別の世界に持っていかれるような感じがするんです。催眠状態に入ってしまうと、どんな恥ずかしいことだってできてしまうし…。射精する瞬間は、例えて言うならば、夢精をする時のような良い気持ちになります。そして催眠が解けると、なんか心の中がデトックスされたような、すっきりとした気持ちになるんです」(「催眠音声」愛好者)
さまざまな性癖の持ち主にアピールする「催眠」ブーム。まだまだ続きそうだ。
(文=江口タケシ)