5大ドームツアーを決行中のAKBグループに持ち上がった「SPR48」設立騒動。事の発端は、AKBサイドが札幌公演を前に「なぜ? AKB48は、札幌で、コンサートを行うのか?」「SPR48(札幌48)を、作りたいから。」という意味深なコピーが踊るCMを放映したこと。さらにスポーツ報知が「SPR48、札幌に誕生」という大見出しで、「2015年春の活動開始をめどにメンバー募集をはじめ、専用劇場のオープンも目指している」と報道し、ファンが騒然となったのである。
もっともこの報道、翌日になってAKB48グループの総支配人である戸賀崎智信氏が「まだ、具体的な計画はありません」と否定。完全な肩すかしとなってしまった。「あの騒ぎは最初から最後までやらせ、AKB商法の一環ですよ」と関係者は話す。
「スポーツ報知の報道が出たのは、チケットの売れ行きが芳しくないと囁かれていた札幌公演の前々日という絶妙のタイミング。運営は札幌ドームの客席を埋めるために卒業した前田敦子を投入するなど必死でしたから、このスポーツ報知の報道もチケットを売るための話題づくり。またしてもAKBに一杯食わされました(笑)」
しかし、前出の戸賀崎氏が「いつか、札幌に専用劇場とSPR48を作りたい」とブログでほのめかしたように、じつは「SPR48」構想は話題づくりだけでなく、着々と進んでいる。というのも、AKB48の運営会社である株式会社AKSは「SPR48.jp」でドメインをすでに取得しているからだ。しかも、ドメインを登録しているのは札幌だけでない。札幌と同時に、なんと「SND48.jp」のドメインも登録しているのだ。
お気づきだと思うが、SNDとは「仙台」を指す。本拠地を仙台に置くプロ野球チーム・東北楽天ゴールデンイーグルスやJ・リーグのベガルタ仙台は復興支援に一役買っているが、AKBの姉妹グループが誕生し、専用劇場がオープンすれば、その効果は絶大。大きな話題になるだけでなく、復興を後押しすることは間違いない。
だが、問題はAKSが「SND48.jp」のドメイン登録をした日時だ。ドメイン検索の結果によれば、「SPR48.jp」「SND48.jp」の登録日は、2011年3月14日。あの東日本大震災が発生してわずか3日後のことなのだ。
2011年3月14日といえば、大きな余震が頻発し、まだ地震と津波による被害の全容さえはっきりしていない時期。もちろんそれだけではない。福島第一原発では、12日に爆発した1号機に続き、14日午前11時には3号機でも水素爆発が発生。さらに午後には2号機が冷却機能を喪失したと東京電力が発表し、日本中が大きな衝撃と不安を包まれていた、まさにその日なのだ。また、東京電力管内で計画停電が実施されたのも、この日からである。
ちなみに、同日にはJリーグが3月中の全試合の中止・延期を決定。ライブの開催を断念するミュージシャンも数多く、“いま、歌に何ができるのか”と葛藤していた。音楽だけではない。エンタテインメント界全体が無力感に打ちのめされていた、そんな時期だった。
ドメイン登録自体は、震災以前から準備されていたものかもしれないし、それを実行したのは、仙台発のアイドルグループで東北を勇気づけたかったからと言うかもしれない。しかし、日本の将来どころか、明日さえどうなってしまうのかまったくわからない中で、被災地であるSNDのドメインを押さえるとは、いくらやり手のAKSだとしても、いささかビジネス重視で、被災者への配慮が足りない姿勢といえなくないか。
AKBグループは同じ3月14日に「AKB48プロジェクト義援金受付口座」を開設し、16日には5億円の義援金寄付を発表。いまも継続して被災地訪問を続けるなど復興支援に積極的に取り組んでいるだけに、そんな疑問が浮かんでしまうのだが…。
(文=今上明)