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ナインティナインの矢部浩之(41)とマツコ・デラックス(40)が司会を務めるトーク番組『アウト×デラックス』(フジテレビ系)に歌手の鬼束ちひろ(32)が出演した。鬼束といえば、デビュー当時の面影から一変し、ここ数年はネットなどで何かと注目を集めている人物。かつては、DV騒動やTwitterでの暴言、ネット動画での奇行などが話題となった、まさに“アウト”なアーティストだ。
番組冒頭の登場シーンで、いきなり「ナイストューミーチュー」「イエスアイドゥー」と叫ぶ鬼束。すでにこの時点で矢部やマツコは面食らっている様子だった。さらに、ソファに座っても、話は一向にかみ合わず、イヤリングを落として再び装着した鬼束は「リメイク!」「リフレッシュ!」とひとり暴走する始末。そんな鬼束の貴重な地上波テレビでの姿に、番組が終わると、ネット上には鬼束のスレッドが乱立していた。
「好きだったのに」「どうしちゃったの」「何があったんだ!?」と、多くのネットユーザーたちは、昔の鬼束を懐かしむ声をあげていた。やはり多くのユーザーたちにとって、鬼束ちひろとは『月光』のころのイメージが強く、どこか影のあるセクシーなアーティストという印象を持っていたのだろう。冒頭に記したように、たびたび世間を騒がしていたとはいえ、メディアへの露出は決して多くなかったのだから、当然といえば当然かもしれない。久しぶりに鬼束に触れた視聴者にとって、彼女の変貌振りは驚き以外のなにものでもなかったことだろう。
番組の中で「友達ゼロ」と言いながら、「昨日、友達とケンタッキーを食べてた」と話し始める鬼束。矢部の進行もどこ吹く風の態度で、いきなり「ディスイズアペン!」と叫ぶ姿は、まさに奇天烈な印象。さらに、鬼束が“妹分”と呼ぶ、アシスタントとして連れてきた素人のファンの子を隣に座らせるなど、やりたい放題。鬼束は、「フランクすぎるから、ファンとも普通に交流しちゃう」と笑いながら語っていたが、2010年には、わずか2週間前に知り合ったという男性を自宅に呼びこみ、しまいにはその男から全治1カ月の暴行を受けるという騒動を起こしている。鬼束自身は笑いながら「フランクすぎる」と言っていたが、およそ一般人の感覚では想像できないフランクさだ。
そうした鬼束の性格は、コアなファンな関係者の間では有名な話だったというが、DV騒動などの顛末を知らない一般の視聴者にとっては、変わり果てた鬼束の姿は衝撃的だったのだろう。透き通るような肌で暖色系のワンピースを着ていたかつての鬼束が、真っ赤な口紅にゴールドの衣装を着込み、歯をむき出して笑っていては、「どうした!? 鬼束」となるに決まっている。終始小刻みに震えている指先には、戦慄さえ覚えたことだろう。
デビュー当初は所属事務所の意向から、清楚な雰囲気で売り出していたという鬼束。しかし、彼女自身も自伝的エッセイ『月の破片』(幻冬舎)の中で語っていたように、そうしたイメージと本来の自分自身のキャラとには大きなギャップがあったという。ネット上でも、今回の鬼束を見た視聴者が「なんか生き生きしてる」などとコメントしていたが、作られたイメージから脱却した今の鬼束こそ本来の姿なのだろう。
鬼束に対して、番組サイドはレギュラー放送の始まる前から出演オファーしていたという。アウトな人々を集める番組としては、まさに打ってつけのゲストだったのだろう。エンディングテーマに鬼束の新曲『悪戯道化師』(NAPOLEON RECORDS)を採用してまで呼びたかった、というのもよくわかる。しかし、鬼束ほどぶっ飛んだゲストを前にするとマツコもどこか普通に見えてしまう。そもそも“アウト”な人々をゲストに呼ぶという番組も、MCのマツコが、まさに“アウトな人間”だからこそ成立する。どんなにぶっ飛んでいるゲストでも、マツコがいればこそ、アウトなゲストも抑制がきき、彼女が鋭いツッコミを入れるから視聴者も楽しめるのだ。
しかし今回の放送でのマツコは、鬼束に「ちび助」と呼ばれながらも、ただ苦笑いを浮かべているだけ。普段のように毒づくこともなく、鬼束に向かっては「おしゃれね~」などと当たり障りのないことを言うだけだった。ゲストによって態度を変える姿は、彼女の頭の良さを物語るものだが、あまりにも淡白すぎると物足りない。マツコには、予想通りぶっ飛んでいた鬼束に対して、もう少しツッコんでほしかった。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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