コアマガジン
大衆向け週刊誌や情報誌だけが雑誌ではない。専門分野に特化した雑誌も存在する。オカルトだったり天文誌だったり、調べてみると柴犬専門誌まであって驚かされた。そういった専門誌の中から、ここではNTR専門誌にスポットを当ててみたいと思う。
NTRとは「寝取られ」の略語で、言葉の出どころはエロゲー。ヒロインが、イケメンの恋敵もしくはキモいオッサンに寝取られ、主人公が悶々とさせられる設定が定番となっている。
あくまで二次元の世界だけの流行かと思いきや、三次元の世界にもNTR嗜好を持つ人々が存在することは、昨年メンズサイゾーでもご紹介させていただいた(※)。とはいえ、NTR嗜好を持つのはごく一部の限られた人々で、一般人には縁遠い世界…かと思いきや、なんとNTRに特化したNTR専門誌『ニャン2倶楽部NTR(ネトラレ)Vol.1』(コアマガジン)が存在するのだ。これは、それなりに需要があるという証しなのか? 業界初のNTR専門誌を通して、昨今のNTR事情を紐解いてみよう。
(※https://www.menscyzo.com/2012/08/post_4517.html)
雑誌を手にとってすぐに気付くのは、一般的なエロ本に比べると、低刺激な写真がメインであるということ。表紙は着衣のモデルで、表紙をめくり読み進めていっても、ごくノーマルなハメ撮り写真がほとんどだ。これこそが、今までNTR専門誌が存在しない理由だと、『ニャン2倶楽部NTR(ネトラレ)Vol.1』編集長の辻氏は語る。
「SM専門誌やフェチ専門誌で扱っているプレイは、ムチやロウソク、あるいは排泄など、ビジュアル的にわかりやすい。対するNTRは、プレイの主眼が関係性におかれるため写真だけだとわかりにくいんです。だから、刊行が難しかったのかもしれません」(辻氏)
確かに、SM専門誌やフェチ専門誌に比べると、並んでいる写真自体はだいぶおとなしめである。特徴的なのは、やたらキス写真が多いという点。本番行為はOKでもキスはNGの風俗嬢が存在するのと同様に、キス=寝取られの象徴的行為なのかもしれない。
次に気になるのは、果たして需要があるのかという点。この点に関しては、「編集部宛てに、毎月複数の『自分のパートナーを寝取ってほしい』という一般男性からの依頼が来ます。数ページの企画を組んでも、それに対する読者からの反響もすごいですよ」とのこと。なお、依頼のほとんどは男性からで、女性からの依頼は滅多にないという。辻氏曰く「NTRは基本的に男性的欲望なんです。その根底にあるのは所有欲です」
所有欲があるのなら、自分のパートナーを寝取られたいという願望は沸かないはずと思うかもしれないが、例えばロレックスの高級腕時計を想像していただきたい。高級腕時計を手に入れたら、引き出しに入れっぱなしにはしないだろう。身に着けてこそなんぼである。それが周囲の目に留まり、「いい時計を着けていますね」と言われることで、より余計に対する満足度は増す。そのうち、「触ってみる?」「着けてみる?」と、話は展開していくだろう。NTRとは、そういうことなのだ。
筆者の場合、お気に入りのアクセサリーを身に着け、周囲の目に留まるところまでは嬉しいが、女友達に対して「着けてみる?」という発想は出てこない。お気に入りのアクセサリーは、やはり自分一人で独占したいもの。ここが、先述の「NTRは男性的欲望」という部分なのだろうか。
「独占というのは所有欲の表現としてはまったく不完全なんです。NTR男性の場合、妻やカノジョに対する『本当は、自分に見せたことのない顔や願望があるのではないか?』という疑惑があり、そういった部分さえも見たい、所有したいという欲求が沸くんですよ」(辻氏)
妻やカノジョが、自分に見せたことのない顔を垣間見たい気持ちが沸くのは理解できる。しかしたいていの人は、「でも、他のオトコとセックスするのはイヤだ!」と踏み止まるだろう。NTRに目覚める人は、何が違うのだろうか?
「それは想像力の問題だと思います。目覚めのきっかけ自体はちょっとしたことですよ。妻やカノジョの、昔の恋バナを聞いて目覚める人も少なくないです。妻やカノジョに性的興奮を抱いている第三者の視線に憑依しているような感覚とでも言いましょうか。ただ、その興奮の震源地は一つではありません」(辻氏)
今からの季節でわかりやすい例を挙げると、なんといっても海! 水着姿の妻やカノジョに、第三者の視線が注がれることに興奮することは誰しもが持つ感覚だろう。NTR(寝取られ)ならぬMTR(見取られ)というやつだ。そう考えると、NTRは特殊な嗜好ではないのかもしれない。
『ニャン2倶楽部NTR(ネトラレ)Vol.1』で、もっとも印象的だった投稿者についても聞いてみた。
「他人ザーメンで妻を妊娠させたいと切望する究極のマニア男性もいましたよ。妊娠したら、『自分の子として育てる』と語っていました」(辻氏)
NTRは、どこまで肯定できるかが勝負なのだ。他人ザーメンで孕んだ妻をどこまで愛せるのか、「挑戦」にも近い感覚なのだろう。
どこまで受け入れられるか、チャレンジ精神旺盛ともいえるNTR嗜好者たち。加えて、プライドが高いことも彼らの特徴だと、辻氏は語る。
「妻やカノジョの、自分に見せたことのない顔を見たいというのは、全てを知ることで相手を完全支配したい欲望の表れとも言えるんです。ただ、ここがNTRの面白い逆説でもあるんですが、相手を完全に支配しようとするNTRの試みは、結果として必ずや一つの真実に突き当たる。それは“一人の男が一人の女を所有することなどできない”という、ごく当たり前の真実なんです」(辻氏)
いやはや、なんとも奥の深いNTRの世界! Vol.1では掲載しきれなかったNTR嗜好者たちのエピソードも、将来的には紹介したいとのこと。NTRの世界に足を踏み入れるか否かは別として、イチ読者としてVol.2に期待したい。
(文=菊池 美佳子)