著:太田光/ぴあ
4月30日深夜に放送されたラジオ『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)で、太田光(47)が、売れっ子作家たちを散々な言いようで痛烈に批判し、話題を集めている。
太田の標的となったのは、村上春樹(64)や宮崎駿(72)など。以前から太田は、彼らに辛らつな発言を繰り返していたが、村上の新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)が発売されたタイミングということもあり、再び彼らについて言及したようだ。
番組の中で太田は村上の新作を読んでいる途中と語りながら、「もう腹に据えかねる」「読んでいられない」と言い、「とにかく受けつけない」と酷評。今回の放送では、その理由について深くは触れていなかったが、「いつまでこれを(やり続けるんだ)って感じ」と言っていることから、かつて2005年に放送された同番組の中で、村上作品について「人間が描けていない」「登場人物が自分を特別だと思っている」「人間の迫力がない」と言っていたように、新作でも同じような印象を持ったのだろう。
また、太田は「宮崎駿は嫌いです」と断言し、「アニメーションの画とか僕は大好き」と言いながら「内容はクソ」「ナウシカとかクソ」と言いたい放題。さらに、2011年に本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』(小学館)について、「バカ売れしてるけど、中身はクソなんですよ」と持論を展開。それでも、『謎解きは~』が売れた理由としては「わかりやすいエンターテイメント」だからと述べていた。
内容はどうあれ、大衆に受けるエンターテイメントであれば、売れるのは理解できると語る太田。そんな考えを持つ太田にしてみれば、「中身がゼロ」で「言っていることが観念的で難しい」村上作品が売れるのは理解できないというのだ。しかしそれでも売れている村上作品。そんな現状に対して、太田は、「あの不細工な男たち(ハルキスト)は、何を考えてるんだろうね」とまで言い、新作が出るたびに書店に並びカフェで本を読む熱心な村上ファンが理解不能であると語っていた。
「日本で一番売れている作家で、世界的にも名前の通った村上春樹さんに対して、なかなかここまで言える人はいないですよね。しかし、それがかえって新鮮で、真実味があるとも受け止められているんです。だから出版業界では太田さんに推薦文や帯を依頼することが多いんですよ。2006年に劇団ひとりさんが小説『陰日向に咲く』(幻冬舎)を書きましたが、ラジオやテレビで太田さんが「これが直木賞取らなかったら日本の文壇はどうかしてる」と激賞して爆発的に売れたという経緯がありますからね。やはり影響力は絶大だと思います。ただ、太田さん自身が言っているように、村上さんほどの大作家に対して何を言おうが売れ行きには関係ないということはわかっているのでしょう。だから売れっ子たちに噛み付くわけです」(業界関係者)
確かに太田の矛先は、村上春樹、宮崎駿、秋元康など、誰もが認める成功者で大物ばかり。そんな彼らをひとくくりに「ブサイクな小太り」と言ってのける太田は、それこそ表面的なものしか見ていないが、痛快でもある。もちろんこの太田の発言は、皮肉や揶揄といった彼特有の毒を含んだギャグの一種であり、賛否両論あるだろうが、巨大な力に果敢に噛み付くことは、誰もができるわけではない。そこには、太田の芸人としてのプライドが見えてくる。つまり、太田は、世の中で絶対的に認められている成功者を批判することで、逆の立場の人間がいることを示し、それをギャグとして披露しているわけだ。
太田は、村上作品が売れるたびに、「そういう世の中とは、上手くやっていけないって思っちゃう」と言う。「(そんな世の中では)俺が受け入れられるわけがない」と自分を憂うのだ。この言葉の真意は、村上春樹を絶対視する世間の風潮に対してのものではないだろうか。だから太田は、あえて超売れっ子で誰もが認める村上や宮崎をこき下ろす。もしかしたら太田にとっては、個人的な名前や作品世界は二の次なのではないだろうか。多様な考え方や意見があるということを示したいがために、太田は、あえて村上や宮崎を痛烈に批判しているのかもしれない。そして、芸人である彼は、そんな成功者たちを「ブサイクな小太り」とギャグにして笑い飛ばす。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/)
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