著:石元太一/双葉社
キャバクラの店長らを脅して飲食代約8万円を踏み倒したとして、中国籍で無職の宋国慶容疑者(32)ら6人が逮捕された。事件があったのは今年4月。飲食代を請求された際、宋容疑者は「誰だか分かっているのか。おれは怒羅権だぞ」などと脅し、店の外まで追いかけてきた店長の腹部を殴るなど暴行を働いた疑いがもたれている。
宋容疑者は中国残留孤児帰国者の二世・三世らで構成された不良グループ「怒羅権(ドラゴン)」のメンバーで、東京都府中市を拠点に活動する「府中怒羅権」のナンバー2だった。脅しに使われるほど名が知られている「怒羅権」とは、どういうグループなのか。
「怒羅権」は、日本語が不自由なため学校でイジメを受けていた残留孤児帰国者らが1988年に結成。90年代には、刃物や鈍器で武装して敵対する暴走族への襲撃を繰り返し、関東最大の不良グループになった。その成り立ちから中国系マフィアとのつながりが強く、日本の暴力団も手を焼くほどの存在となっている。
昨年も、怒羅権のメンバーが住吉会系の暴力団組員に路上で因縁をつけ、中華包丁で耳を切り落とすという事件が発生し世間を震撼させた。普通に考えれば、これだけの事件があれば大掛かりな復讐がありそうなものだが、暴力団側は報復行動に出ていない。
市川海老蔵事件などで注目された「関東連合」や「怒羅権」など「半グレ」「愚連隊」などと呼ばれる不良集団の強みは、暴力団対策法の適用外ということ。暴力団側が下手に動けば、暴対法で警察に一網打尽にされてしまうだけに、不良グループのように自由に動けないという事情がある。また、不良グループは暴力団のような「親分・子分」といった明確な組織化はされていないため、実態も非常につかみにくい。
暴力団側も不良グループと敵対するよりも、共存し上手く利用する道を選び始めている。昨年12月、キャバクラで飲んでいた山口組系組員らが関東連合OB約20人に襲撃される事件があった。襲撃グループのバックには住吉会系暴力団がいたといわれ、カネで不良グループを「殺し屋」のように使う新しいタイプの喧嘩だったという見方がある。
今年9月に六本木のクラブ「フラワー」で飲食店経営者が複数の男に襲撃され殺害された事件でも、関東連合の関与が疑われている。少なくとも犯人の中に関東連合OBの中堅クラス1人が含まれているとされ、警察も情報をつかんでいたが、海外への高飛びを許してしまっている。
事件の闇に半グレ集団ありという状況になっているが、なぜここまで彼らが台頭するようになったのか。
「警察が暴力団の締め付けに躍起になっている間に台頭してきたのが彼ら。暴力団の力が弱まれば、その分、暴対法適用外の不良グループや海外マフィアが勢力を伸ばすのは当然です。『暴力団排除』という分かりやすいスローガンだけ掲げ、その結果どうなるのかを全く考えていなかったのは警察の怠慢。いまだに不良グループ捜査の担当部署すら決めていない時代錯誤の状態です」(実話誌ライター)
中国マフィアと連携して闇社会に君臨する怒羅権も、経済界や芸能界にまで浸出している関東連合も、警察の介入がない限りは今後も勢力を拡大させていくに違いない。遠隔操作ウイルス事件でも警察の「時代遅れ」が指摘されたが、半グレ集団に関しても時代に即した対応をしていかなければ、いつまでも彼らをのさばらせることになるだろう。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops)