「自己欲情死」などというと何とも堅苦しい用語であるが、要するにマスターベーションの行為中、またはその直後に何らかの原因によって死亡するケースである。この自己欲情死については、かなり多くの事例があるらしいと言われていながら、その実態についてはなかなか総合的な研究がなされていないようだ。
ただ、アメリカの研究者による調査の事例が日本で紹介されたことはある。1980年(昭和55年)に、月刊誌『警察時報』10月号において、「世界の法科学情報」という連載のひとつとして、「女性による自己欲情死の事例」という記事で、アメリカで発表された論文を日本の研究者が解説したものである。
その内容であるが、研究者が書いたものにしては文章にまとまりがなく、文脈が乱雑でわかりにくいものの、まず男性の自己欲情死には、一般的なオナニー時の死亡と、女装や自縛などの倒錯した趣味でのオナニー死があると、アメリカでの傾向を挙げている。
そして、男性のオナニー死は多く報告されているが、女性のケースは1件のみであるとし、その女性の事例について、遺体の写真などによって生々しく解説している。
その事例は21歳の独身女性のケースで、発見された際に彼女は自宅アパートの浴室でバスタブのなかで、全裸で水に顔をつけた状態で発見された。浴槽のなかからはナットがついたままの金属製のボルトも発見された。
警察は当初、事件と事故の両面から捜査を進めた。だが、事件性が見られなかったことから、事故と自殺の線でさらに調べが進んだ。
ところが、死因がはっきりと特定できなかった。窒息死であることはわかったが、その過程がハッキリしなかった。解剖の結果、女性の肺にはほとんど水が入り込んでいなかったため、溺死の可能性は低いと判断された。そして、のどに吐しゃ物が詰まっていたことがわかったが、これもそれだけで死に至るほどではなかった。
そして、1年以上にわたる調査の結果、研究者のダント博士はこれをオナニーが原因での事故死と推測づけた。
博士の考えはこうである。彼女は浴槽内で、ボルトを使ってオナニーに没頭していた。ところが、快感の絶頂に達した時、あまりの興奮のために脳酸素欠乏症になってしまった。それによって姿勢を崩した彼女は、バスタブのヘリに頭をぶつけ、さらに脳酸素欠乏症によって吐き気を起こし、その吐しゃ物が気管に詰まってしまった。それらによって意識が混濁した彼女は、そのままバスタブの湯に頭部を没入させてしまい、そのまま窒息してしまったというわけである。
さて、日本においてもこの自己欲情死は、実はとても多いという。一人暮らしの男性と連絡が取れなくなったとか、部屋から異臭が漂ってきたなどという通報から、警官や救急隊員が部屋に踏み込むと、そこには下半身を露出し、自らの男性器を握りしめたまま絶命している男性が発見されるケースも少なくないのだそうだ。
ただし、そうしたケースは、単なる事故死や病死、死因もただ「急性心不全」「呼吸困難による酸欠」などとされてしまうため、自己欲情死としてのデータには入らないのだそうだ。医療関係者から聞いた話だが、詳細はまだ確認していない。
(文=橋本玉泉)