してみればきっと分かるはず。堕ちていく様が気持ちいい、少女調教作品集だ。
『えむちっく』著:いちこ/ジーウォーク
AVなどでも欠かせぬジャンル、それが「調教」です。ぼくも露出物とか好きです。
でも、実質その心理ってよく分からないわけですよ。エロとしては楽しいし、「えーっ!」とか言って、羞恥する女の子に興奮したりもするわけですが、どこまで女の子は感じているのか。そもそも女の子に振り回されてるのは、調教している側なんじゃね? とか考えちゃったりね。調教する側の興奮は分かるけど、そこに依存してしまう女性の性を見たいのですよ。
今回の『えむちっく』は、まさにド直球で調教される女性の感情にメスを入れた作品でした。なぜ女性は、SMの中で「奴隷」になるんだろうか?
物語は、ヒロインの少女が日常的にエロサイトを見ながらオナニーをしているところから始まります。ただし、そのサイトはちょっと特殊。調教師が経営するサイトなのです。メールで事前に時間を決め、音声チャットで淫猥な会話を交わします。つまり最初は接触がないんです、声しか。
しかし、ここに命令が入ってきます。
「許可なしでイってはいけない」「自分がどうなのか包み隠さず報告する」
繰り返していくうちに、この約束の時間が待ち遠しくて仕方なくなるのです。
あ、この感覚はなんだかちょっと分かるかもしれない。習慣化していくと、依存というのを通り越して生活の一環になってしまい、心が頼り切ってしまうんだ。第三者から見たら奇妙な光景ですよ、PCに向かって、オナニーしているだけなんですから。でも、チャットしている二人の間ではどんどん関係が開いていきます。触れてはいないけれども、すでに二人はセックスしているといっていい。まさに「プレイ」です。
ある日、「もうやめよう、これ以上は君が戻れなくなるから」とその声の主は告げます。ここで猛烈に泣きながら彼女は「奴隷になります!」と叫びます。もちろん後悔はありません。いやはや、策士ですよ。押すだけ押しておいて、マンネリになる前に引いて見る。案の定といったらなんですが、少女は性に転げ落ちていきます。
その後、処女だった彼女に「おまえは今週末この男とセックスをするんだ」と命令します。究極のSMプレイです。いや、これをプレイと言っていいのか、ちょっとぼくには分かりません。だってセックス自体は、別の人とするんだよ、おいおいいいのかい!?
実際にはどうなのか読んでもらえば分かりますが、そこで従ってしまう少女の心理が面白いんですよ。こうやって文で書くと「いやいや、それはないよ」と感じてしまうんですが、実際にマンガを読んでいるとその少女同様に「従うしか無い」と退路を断たれた気持ちになってしまうのです。
調教は、押しまくるだけではいけません。適度に引いてみたり、意外性を持たせてみたり、不安を駆ったりすることで歯止めを一枚ずつ丁寧に外していく必要があります。
同時に最も大事なのは、相手が何を求めているかを判断する力です。S側は自分の満足を満たすだけではいけません。相手の満足を満たしてこそ初めて成立する。それがこの作品からしみじみ伝わってきます。いやー、遠い世界の話みたいに見えるけど、こういうカップル実際にいるのかもしれないなあ……。性って不思議。
調教という愛を描いた中編「幸せの枷」の他にも何編か短編が載っていますが、いずれも依存という愛や性の快楽への崩落を描いたものばかり。狭められた世界に入り込んで感じるタイプのエロマンガなのです。うーん、キモチイイ。
(文=たまごまご/たまごまごごはん)