大学教授のセクハラというのも、最近ではいくつも問題となっているようだ。もっとも、昔から大学の先生といえども聖人君子とは限らないようで、その手の「エロ大学教授」事件はいくつも起きているし、時には傷害事件にまで発展してしまうこともある。
1987年8月7日の朝8時半頃、東京国際大学教授のA氏(55)が、かねてから交際中、というより愛人関係にあった東京・練馬区の各種学校講師のB子さん(31)の部屋を訪れた。すでに2人の関係は7年以上も続いており、A氏は合鍵を使って彼女の部屋にいつも通りに入っていった。しかし、あいにくB子さんは留守だった。
そこで、何気なくテーブルの上を見ると、そこには腕時計とパスケースが置いてある。腕時計は、明らかに男物であり、しかもケースの中にある通学定期は見も知らぬ男の名前が記してあった。
気がつけば、バスルームから水音がする。それがこの腕時計などの持ち主であることに気づくのに、それほど時間はかからなかった。
「自分の知らない間に、男を引っ張りこむとは!」
A氏の怒りは、瞬く間に頂点に達した。台所にあった果物ナイフを手に取ると、バスルームの前に立った。そして、中に向かって大声で怒鳴った。
「出て来い、ぶっ殺してやる!」
さて、入浴していたのは、大学4年生のC君(21)。B子さんの勤める各種学校でアルバイトをしていて彼女と知り合い、交際していたというわけである。B子さんが出かけた後でひと風呂浴びていたところ、いきなり見知らぬ男から「殺してやる」などと怒鳴られて、驚かないわけはない。あまりの恐怖に、C君はバスルームの内側から鍵をかけてしまった。
するとA教授、ますます怒りを燃え上がらせた。何が何でもC君を引きずり出さないと、気が済まなくなっていた。しかし、恐れおののくC君は、ただひたすらバスルームで身を潜めているだけだった。
裸のまま「篭城」する大学生と、その扉一枚の向こうで怒りまくっている大学教授。そんな状況のまま、昼が過ぎ、午後となった。そして篭城から約8時間、夕方の5時になる頃、ついに降参したのはC君だった。あきらめてバスルームを出てきた彼に、A教授はナイフをつきつけた。
「おとなしくしろ」
疲労と空腹と恐怖感で、C君は抵抗することなどできなかった。A教授はC君の手足を荷造りヒモで縛り上げると、彼の顔を足で蹴った上、ビール瓶で顔や頭、首筋などを何度も殴打した。
しかしC君、A教授の隙を見てバスタオルと部屋にあったB子さんのワンピースをとっさに羽織って脱出。近所にあったパン屋さんに逃げ込んで助けを求めた。C君は全治2週間の大ケガだった。
そして翌日、両親にことの一部始終を話したところ、両親が警察に被害届けを提出。そして1カ月後の9月9日、A教授は監禁、傷害の疑いで逮捕された。
事件が明るみになったA教授は、大学を懲戒免職。そして11月24日、東京地裁で懲役1年2カ月、執行猶予3年の判決が言い渡されたのであった。
(文=橋本玉泉)